73号 高温ガス炉の現状と今後について~水素社会に貢献する"地産地消"の次世代革新炉~

国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 大洗原子力工学研究所 高温工学試験研究炉部長
角田淳弥(すみた じゅんや)
1998年、北海道大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻修了。同年、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)入所。HTTR(High Temperature Engineering Test Reactor、高温工学試験研究炉)の運転・保守、黒鉛材料開発に従事。2008年、北海道大学大学院にて工学博士取得。
「GX実現に向けた基本方針」(2023年)や「第7次エネルギー基本計画」(2025年)では、減少する原子力発電を補うための次世代革新炉の研究開発が明示されています。そうした原子炉のひとつに高温ガス炉があります。カーボンニュートラルの実現に大きく貢献すると考えられる高温ガス炉とはどんな原子炉なのでしょうか。国内で唯一、高温ガス炉の研究炉を持つ国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の角田淳弥氏に、高温ガス炉の現状と課題、高温ガス炉を活用した社会についてお聞きしました。
優れた安全性と多様な熱利用が特徴の高温ガス炉
高温ガス炉は高温熱を活かした準国産のカーボンフリーの水素や熱の供給により、製鉄や化学などの素材産業の脱炭素化への貢献が期待されている次世代革新炉です。
その特徴として、優れた安全性が挙げられます。炉心の主な構成材には黒鉛を中心としたセラミック材が使用されています。燃料核を特殊なセラミックスで被覆した被覆燃料粒子は1,600℃でも破損しません。さらに、この被覆燃料粒子を黒鉛の構造材に収めています。黒鉛は強度が高く、2,500℃の高温にも耐える材料です。また、黒鉛は熱伝導率が大きく、かつ炉心構造物として大量に使用していることから、万一の事故の際にも黒鉛が熱を外部へ逃し、炉心の温度変化が緩やかです。
高温ガス炉と軽水炉の比較
高温ガス炉と軽水炉の比較及び高温ガス炉概要(出典:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構作成)、軽水炉プラント概要(出典:原子力・エネルギー図面集)
熱を取り出すための冷却材にはヘリウムガスが使われています。ヘリウムは化学的に不活性で、高温でも燃料や構造材と化学反応を起こすことなく安定しています。被覆燃料粒子及び黒鉛やヘリウムガスといった安定した材料を用いることで、高温ガス炉は炉心溶融が起こらない優れた安全性を持っています。
もうひとつの大きな特徴は高温の熱を取り出せることです。現在の原子力発電の主流となっている軽水炉では、取り出せる温度は約300℃に制限され、蒸気タービンによる発電効率は30%程度となっています。高温ガス炉では900℃を超える熱を取り出すことができ、ガスタービン発電方式を採用すれば45%以上の発電効率を得ることができます。高温ガス炉の熱は発電以外にもさまざまな分野で活用でき、水素製造、産業向けの高温蒸気供給など幅広い熱利用ができます。水素利用については、例えば、熱出力250MWの高温ガス炉では、燃料電池車30万台/年分の水素製造※が可能です。
※水分解による水素製造効率50%、稼働率80%を仮定
"地産地消"の活用法で運輸、産業分野のCO2削減に貢献
高温ガス炉は優れた安全性と高温の熱供給というその特性を生かした活用法が期待できます。需要地に近接した場所に建設しても安全なため、例えばコンビナートに設置して地域一帯にエネルギーを供給するなどの"エネルギーの地産地消"が可能であるということです。
具体的には、高温ガス炉に水素製造施設や発電設備を備えたエネルギーセンターから、熱(蒸気)・水素・電気といった多様な形のエネルギーを供給します。石炭の代わりに水素を使用することでCO₂の大幅削減が可能な製鉄所には水素を、化学プラントには高温の熱を供給することができます。また水素ステーションを設置すれば、地域で稼働する燃料電池車に水素を供給できます。つまり、高温ガス炉を活用すれば、コンビナート全体の脱炭素化が推進できるのです。
2050年カーボンニュートラルを目指す日本は、2013年比でCO₂の46%削減という野心的な目標を掲げています。CO₂の排出量が多い分野に運輸と産業がありますが、製鉄や化学など高いエネルギーを必要とする産業は電化だけでは対応できません。高温ガス炉から供給される900℃を超える高温の熱やその熱を利用して製造される水素は、運輸や産業分野の脱炭素化に大きく貢献すると考えられます。
地産地消でGXを実現する高温ガス炉
(出典:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)
高温ガス炉の開発の歴史と今後の展望
当機構が大洗原子力工学研究所に設置しているHTTR(High Temperature Engineering Test Reactor、高温工学試験研究炉)は、日本初の高温ガス炉です。1987年の「原子力開発利用計画」に基づいて次世代の原子力利用を開拓し、高温ガス炉技術とその熱利用技術の確立のために建設が決定されました。着工から7年半をかけて建設され、1998年に初臨界を達成しました。2004年には定格熱出力30MWにおいて原子炉出口冷却材温度950℃を世界で初めて達成し、さらに2010年には50日間の高温(950℃)連続運転を完遂しました。
HTTR(高温工学試験研究炉)の仕様
(出典:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)
2011年に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を教訓として規制強化された新規制基準に対しては、2020年に新規制基準に基づく設置変更許可を取得、翌2021年に約10年ぶりに運転を再開しました。その後、安全性実証試験を行い、炉心の流量や冷却の機能が失われた場合も、原子炉の出力が自然に低下し、その状態が維持されることを実証しました。HTTRを用いた試験によって高温ガス炉の安全性を確認し、基盤技術を確立できたと考えています。
熱利用試験のイメージ
(出典:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)
今後はHTTRを活用した水素製造試験のフェーズに移行します。HTTRに隣接して水素製造施設を建設し、高温ガス炉と水素製造施設を安全に接続する技術を確立します。2026年以降に水素製造施設の建設に取りかかり、2028年以降の水素製造試験を目指しています。
社会への実装については、HTTRで得られた知見を活用して2030年代後半の運転開始を目指しています。国内実証炉の開発事業は三菱重工が中核企業となり、水素製造技術の実証を含めて研究開発・設計が進められています。原子炉熱出力は150~250MWで、800℃を超える高温を水素製造施設に供給する計画です(https://www.mhi.com/jp/business/products-services/energy-environment/nuclear-power-generation/high-temperature-gas-cooled-reactor)。
HTTR原子炉建屋外観と格納容器内(中間熱交換器、ヘリウム循環器)
なお、高温ガス炉は日本だけでなく英国、米国、ポーランド、韓国、中国などで開発が進められています。中国ではすでに実証炉が運転中で、2026年から実用炉の建設が開始されました。
高温ガス炉の開発の歴史と今後の展望
高温ガス炉を社会実装するためにはさまざまな課題があります。まずは「誰がどこに造るのか」という問題です。需要地に近い場所に建設するとなると、地域に受け入れてもらうためのステークホルダーとの対話が重要になります。実証炉の立地に関しては、2025年6月に茨城県が設置を求める要望書を国に提出しました。茨城県大洗町にはHTTRがすでに設置されており、これまでの研究開発基盤を活かせる強みもあります。
高温ガス炉には大型化が難しいという技術面の課題がありますが、これについてはモジュール化することで出力を補うことが考えられます。中国では、建設予定の実用炉熱出力250MW×2基を3つ連結し、合計6基で大型タービンを駆動する計画です。我々が行った設計では熱出力600MW×4基の例があります。モジュール化すると需要に応じて出力規模を変えていけるという利点もあります。
実用化のためには高品質の燃料の供給も重要となります。高い燃焼度に耐えうる燃料を安定して供給する技術と体制を確立し、再処理の技術開発も必要です。
新しい原子炉である高温ガス炉は安全基準や構造規格が必要です。そこで、日本原子力学会に研究専門委員会及び日本機械学会に高温ガス炉規格検討タスクを立ち上げ、安全基準の考え方及び設計・構造規格の原案を検討しています。当機構も委員として参加し協議を行っており、今後も高温ガス炉の特性を考慮した基準や規格の検討に貢献していきます。
カーボンニュートラルに必要な水素社会の実現
高温ガス炉を社会で有益に活用していくためには、原子炉そのものの技術確立だけでなく、熱利用技術の確立が必要です。今後予定されているHTTRの熱利用試験で、水素製造に必要な機器やシステム、接続技術についても検証を行っていきます。まずは世界的に商用技術が確立されているメタン水蒸気改質法による水素製造施設をHTTRに接続して検証しますが、将来的にはカーボンフリー水素製造法に移行していく計画です。カーボンフリー水素にはいくつかの製造法があり、三菱重工などが開発しているのは高温水蒸気電解法です(https://www.mhi.com/jp/technology/review/sites/g/files/jwhtju2326/files/tr/pdf/614/614090.pdf)。これら水素製造技術の比較検討により、高温ガス炉への接続に最適な水素製造法を検証していきます。
高温ガス炉はカーボンニュートラルの実現に貢献し、将来の水素社会に大きく役立つ次世代革新炉です。その機能を十分に発揮するためには、高温ガス炉の技術開発も重要ですが、社会全体が水素を活用する仕組みや考え方に変わっていく必要があると思います。そうなることで高温ガス炉がより社会の役に立つものになっていくと考えています。
