72号 革新軽水炉SRZ-1200の現状と今後について~2030年代に向けて開発が進む次世代原子炉とは~

  1. ホーム
  2. 活動内容
  3. 広報誌
  4. 広報誌:TOMIC
  5. 72号 革新軽水炉SRZ-1200の現状と今後について~2030年代に向けて開発が進む次世代原子炉とは~
画像:西尾浩紀(にしお ひろき)

三菱重工株式会社 原子力セグメント SRZ推進室主幹プロジェクト統括
西尾浩紀(にしお ひろき)

1996年3月、九州大学大学院工学研究科応用原子核工学科(修士)修了。同年4月、三菱重工株式会社入社、神戸造船所原子力プラント技術部プラント設計課に勤務。北海道電力泊原子力発電所3号機の系統設計、US-APWR(アメリカ向改良型加圧水型原子炉)やATMEA1(AREVA社(当時)との共同開発による中型原子炉)などの海外向け原子炉開発のプロジェクトを経て、2019年からSRZ-1200の開発に従事。

電力の安定供給や脱炭素化に欠かせない電源と考えられている原子力発電ですが、再稼働や新設が進まない中で国内の原子力設備容量は減少しつつあります。「GX実現に向けた基本方針」(2023年)や「第7次エネルギー基本計画」(2025年)では、国として「次世代革新炉の開発・建設に取り組む」ことが明示されました。今回は次世代革新炉として期待されるSRZ-1200の開発に携わる三菱重工株式会社の西尾浩紀氏に、開発の状況や従来の原子炉との違いなどについて、詳しくお聞きしました。

長期間のリードタイムが必要な原子力事業

カーボンニュートラルに向けた原子力事業の取り組みは当社にとって重要なセグメントのひとつで、長期的なロードマップを立てて事業に取り組んでいます。短期的には既設炉の再稼働や燃料サイクルの確立といった取り組みがありますが、2030年代には革新炉、2040?50年代には将来炉と呼ばれる新しい原子炉が主力になると考えられます。将来炉には高速炉や高温ガス炉、離島や小グリッド向けの小型炉やマイクロ炉、さらにその先には夢の電源といわれる核融合炉があり、多様化する電源ニーズに対応できるよう開発を進めています。

一般的な感覚では10年、15年は長く感じると思いますが、安全性確保のため膨大な開発・検証を要する原子力の世界ではあっという間です。将来炉のようなまったく新しい技術の実用化には、設計から検証、さらに国の許認可を視野に入れると、原子力発電設備の建設・運用開始までにより長い時間を要することが考えられます。実際に、現在開発が進められている将来炉も、2040年代以降の実用を目指しています。一方で、既設炉の耐用年数など原子力発電にはさまざまな課題があり、至近で実現可能な安全性の高い革新炉が求められています。これに相当するのがSRZ-1200です。すでに十分な実績がある従来の原子炉の技術を用いながら、安全対策と革新技術によって大幅に安全性を向上させています。現行基準に適合した技術をベースにしているため、開発期間が比較的短く2030年代の実用化を目指しています。

革新軽水炉世界最高水準の安全性を持つSRZ-1200

SRZ-1200の大きな特徴は世界最高水準の安全性です。福島第一原子力発電所事故を経験した日本において、安全性を抜きに原子力発電は語れないと思います。加圧水型軽水炉であるSRZ-1200はさまざまな安全対策を設計段階から織り込んでいくことで、安全性の更なる向上を追求しました。

安全対策は自然災害などの外部ハザードへの対策強化と、内的要因である設備の安全性向上に分けられます。外部ハザードである地震や津波など自然災害への耐性強化としては、耐震性を向上させるために原子炉建屋を頑健化・低重心化し、また、津波への対策として、敷地レベルのかさ上げによる完全ドライサイト設計としました。さらに台風、竜巻、火山灰の侵入防止なども考慮して全体の設計を行いました。自然災害以外の外部ハザードとして、大型航空機の衝突を想定し、外部遮へい壁を従来の2倍の厚さに増強、鋼製格納容器に高強度の鋼板を使用しています。

画像:革新軽水炉SRZ-1200

革新軽水炉SRZ-1200(出典:三菱重工株式会社)

一方、発電所内部でも安全性を追求した多様なシステムを採用しています。炉心冷却・原子炉格納容器の閉じ込め機能強化では安全系設備を従来の2系列から3系列に増強しました。さらに建屋の配置を徹底して区画分離することで、ある区画で事故が発生しても他の区画に影響を及ぼさないようにして安全機能の喪失を防いでいます。また、非常用発電機の電源多様化の観点から、ディーゼルとガスタービンの方式の異なる発電機を導入するなど、多重的な安全対策を行っています。加えて、信頼性向上の観点から動力源を必要としないパッシブ安全設備も一部導入しています。

画像:SRZ-1200の特徴)

SRZ-1200の特徴(出典:三菱重工株式会社)

特に、溶融炉心対策として取り入れたのが、世界最新技術であるコアキャッチャです。万一炉心が溶融した場合も、原子炉容器の下にある専用ピットで受け止めることができます。犠牲剤と呼ばれる特殊なコンクリートと混ぜて流れやすい状態にして、専用の拡散槽内に薄く広げることによって冷却しやすくなり、溶融炉心を安定した状態に保つことができます。コアキャッチャは海外の最新プラントで導入されている技術で、万一炉心が溶融した場合でも、その影響を最小限にするシステムのひとつです。

画像:世界最新技術であるコアキャッチャの採用

世界最新技術であるコアキャッチャの採用(出典:三菱重工株式会社)

柔軟な出力調整も可能

社会的ニーズを考えた時に重要となるのが再生可能エネルギーとの共存です。SRZ-1200では従来よりも出力調整が容易で、例えば出力を50%落とすのに、従来であれば数時間かかったところ、数十分で落とす能力を有しています。

本来の原子力発電のメリットは安定した大規模電源であることですが、将来的な電力系統全体の運用を考えると、再エネに対応して出力調整を行う可能性もあります。そうしたニーズに対応できる機能を備えています。

2030年代の実用化に向けて基本設計は概ね完了

SRZ-1200は九州電力をはじめとして北海道電力、関西電力、四国電力の4事業者と共同で標準プラントの開発を進め、基本設計はほぼ完了しています。ただし、標準プラントは特定のサイトを想定したものではないので、発電所ごとに立地や気象などの固有の条件を考慮した個別の設計が必要となります。電力会社によって運用方針が異なるので、これらの条件を踏まえた基本設計、さらに詳細設計を行い、2030年代の実用化を目指しています。

また、標準プラントの基本設計を踏まえ規制予見性の向上を図るため、国の規制庁との協議にも取り組んでいます。2024年12月よりSRZ-1200の新設規制に関する意見交換を原子力規制委員会と開始しました。SRZ-1200は既設炉をベースとしていますが、一部に異なる設計や技術を採用しています。そのため、新設炉向けに規制の論点を整理し、規制の予見性を向上させるための意見交換を1年ほどかけて実施しています。これは審査ではなく、あくまで意見交換や対話の取り組みですが、安全性が最優先の原子力規制においては重要なプロセスだと考えます。

さまざまなケースを想定した検証試験

原子力規制委員会との意見交換に加え、今後の許認可に向けてデータ取得や性能の裏付けとなる検証試験も実施しています。新規構造を採用した原子炉や構造物などの安全性については、設備ごとに個別の検証を行い、大型炉向けに開発が進められていた一部の設備はすでに検証試験が完了しています。具体的には主要設備では、1次冷却材ポンプ、高性能蓄圧タンク等の技術開発・実証試験は完了しています。また、上部挿入式炉内核計装やコアキャッチャは検証中であり、原子炉容器及び炉内構造物の流動試験にも取り組んでいます。

画像:下部流動試験のスケールモックアップ

下部流動試験のスケールモックアップ(出典:三菱重工株式会社)

上部挿入式炉内核計装とは原子炉内部の中性子の状況や出力分布等をリアルタイムで測定・監視する装置のことで、既設炉ではこの装置を原子炉容器の下部から挿入するのが主流でした。しかしながら管を通すための溶接部がどうしても脆弱になり漏洩リスクが上がります。これを上部から挿入することで容器下部に溶接部がなくなり、漏洩リスクを下げることができます。

コアキャッチャについても検証中です。その構造はとてもシンプルなのですが、放射線にも耐える耐熱ブロックや犠牲剤に使う材料なども開発していますので、こちらも検証試験が必要になります。構造体、コンクリート、ブロックなどは海外で実用化されている製品もありますが、可能な限り国内製品を使用したいと思っています。海外製品の仕様、性能等はデータ上で理解できていても、中身を分かっているとは言い難い側面があります。信頼できるものを国内メーカーに作っていただき、我々の目できちんと確認してデータを取り、その性能や技術を理解した上で関係省庁にも説明する。そうすることでより良いものが作れると考えています。

原子炉容器及び炉内構造物の流動試験は新しいタイプの炉では必ずやらなければならない検証です。炉心内部における冷却材の流速、圧力分布、流動状況などを評価する必要がありますが、実際の炉の中を直接見ることはできません。そのため透明な素材でスケールモックアップを作り、炉内の流動が安定しているかを確認します。現在のものは1/7のスケールで、頂部、上部、下部の3つのパーツに分けて試験を行い、最終的に全体を通した総合流動試験を行います。事故が発生したケースも含め、さまざまなケースを想定してデータを収集・分析しています。

ますます重要となるサプライチェーンの維持

原子力発電所は当社のようなプラントメーカーが単独で建設できるわけではなく、それを支える高度な技術を有した国内企業の技術力を結集して建設します。その産業基盤を維持することは非常に重要なのですが、新規プラントの建設が長らく行われていない中で、日本の高度な原子力技術の維持、伝承、人材育成などが難しくなっています。これは原子力産業全体の課題です。

既設炉のメンテナンスは現在も行われていますが、一から開発を進める新設炉にはまったく異なる技術やノウハウが必要です。最初にお話ししたように原子力の世界はリードタイムが長く、開発した技術や製品が社会に実装されるのが10年後、15年後ということが珍しくなく、企業はこの間も経営を維持していかねばなりません。こうしたことから海外では原子力発電に関するサプライチェーンが崩壊し、技術力や製品供給力を維持できず、原子力発電所を自国の製品だけで建設できない国も出てきています。

画像:原子力発電のサプライチェーン

原子力発電のサプライチェーン(出典:三菱重工株式会社)

この点において日本は、原子力に関する技術や製品を国内で供給することができます。島国である日本にとって原子力プラントを国内供給できることの意義は非常に重要だと感じています。この技術力やサプライチェーン等の産業基盤の維持は大きな課題だと考えます。

SRZ-1200はカーボンニュートラル実現に向け、CO?を排出せず、柔軟な出力調整によって再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に引き出すことができるプラントであり、そして大規模自然災害だけでなく、テロに対しても高い耐性を有する安全・安心なプラントでもあります。私たちは早期社会実装に向け、今後もしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

ページのトップへ