68号 高レベル放射性廃棄物の最終処分を考える~次の世代に負の遺産を残さないために~

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(2023年9月発行)
画像:TOMIC68号 2023年9月発行

九州大学名誉教授/東北大学金属材料研究所特任教授
出光 一哉 (いでみつ かずや)

1980年、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。1982年、同大学大学院工学研究科応用原子核工学専攻修了。同年、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)入社。1989年九州大学助手、1993年同助教授、2002年九州大学大学院工学研究院教授を経て現職。専門は放射性廃棄物処理、核燃料開発など。経産省などの各種委員も務める。

原子力発電を行うと高レベル放射性廃棄物が発生しますが、その最終処分は避けて通れない課題です。日本では、地表から300メートル以上深い安定した地層に処分することにしています。国は、「政府一丸となって、かつ、政府の責任で、最終処分に向けて取り組んでいく」方針を示していますが、なかなか進んでいません。「とおみっく」第54号でも高レベル放射性廃棄物の最終処分についてお話しいただいた、九州大学名誉教授で東北大学特任教授の出光一哉氏に、その後の進展や今後の展望などをお聞きしました。

印刷用ファイル(7,427KB)

原子燃料サイクルと高レベル放射性廃棄物

原子力発電で使用されるウラン燃料は、発電の際にわずか3~5%しか消費されず、残りの95~97%は再利用が可能です。日本では、再処理して使用済燃料から再利用可能なウラン、プルトニウムを回収し、再び原子力発電の燃料とする「原子燃料サイクル」を基本としています。再処理の過程で再利用できない放射能レベルの高い廃液が残りますが、この廃液を融かしたガラスと混ぜ合わせ、ステンレス容器に入れて固めたものが「ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)」です。。

原子燃料サイクルには2つの大きなメリットがあります。1つはウラン資源の有効活用です。日本はウラン資源のほぼすべてを輸入に頼っていますが、使用済燃料から再利用可能な燃料を回収し利用することで、ウラン資源の有効活用が図られ、エネルギーの安定供給に貢献します。

2つ目として、使用済燃料を直接処分する場合と、再処理して処分する場合を比べると廃棄物の体積が1/4に、放射能レベルが天然ウランと同程度に低下する期間が、10万年程度から、8000年程度と約1/12に短縮されます。

画像:原子燃料サイクル図

高レベル放射性廃棄物の地層処分について

日本での使用済燃料の再処理は青森県六ヶ所村で行われる予定です。ここでガラス固化体が製作され、発熱率が数百ワットに下がるのに必要な期間(30~50年間ほど)貯蔵され、その後、最終処分場に運ばれ処分されます。現在、六ヶ所村には海外で再処理された際に製作されたガラス固化体が貯蔵されています。

現在、最も問題点が少ない最終処分の方法として世界的に採用されているのが地層処分です。地上で管理すると、地震や台風などの自然現象、人間による戦争やテロ等の問題があります。他にも宇宙処分、海洋処分、氷床処分などの方法が検討されましたが、いずれも問題点があり、最も安全確実で自国での処分が可能な方法が地層処分なのです。

地層処分は、人間の生活環境から隔離された地下300メートルより深くかつ安定な地層(岩盤)に人工的な複数の防護壁(人工バリア)と天然の岩盤(天然バリア)とを組み合わせて放射性物質を閉じ込める「多重バリア」の考えに基づいています。

多重バリアシステムの詳細については「とおみっく」第54号をご覧ください。

画像:人工バリアと天然バリアを組み合わせた多重バリアシステム
画像:放射線量の遷移について

最終処分地選定の目安となる「科学的特性マップ」

地層処分で重要となるのが最終処分地の選定です。処分地を選定する場合、その場所が地層処分に適しているかどうかを見極めるためには、火山活動、地震・断層活動、隆起・浸食といった自然現象の影響、地下深部の地盤の強度や地温の状況など、様々な科学的特性を総合的に検討する必要があります。国は、地層処分に関係する地域の科学的特性を、既存の全国データに基づき一定の要件・基準に従って客観的に整理し、全国地図の形で示した「科学的特性マップ」を2017年に公表しました。

「科学的特性マップ」では、火山活動の可能性がある場所、地震・断層活動がある場所、著しい隆起・侵食が認められる場所、地熱が高く酸性度の高い地下水が出る場所などは、地下の長期安定性等の観点から地層処分の安全性に影響を及ぼす恐れがあり、好ましくない場所としてオレンジで示されています。また、地下に石油、石炭、ガスなどの鉱物資源の存在が認められる場所は、将来的に人間が掘り起こす可能性があるため、将来の掘削可能性の観点から好ましくない場所としてグレーで示されています。

これ以外は「好ましい特性が認められる」、「可能性が相対的に高い」場所としてグリーンで示されています。とりわけ沿岸から20㎞程度を目安とした範囲は、輸送面でも好ましい場所として濃いグリーンとなっています。

「科学的特性マップ」は、あくまでも既存の全国データを基に処分地に適している、適していないを地図上に示したものです。処分地の選定にあたっては、この後お話しする各プロセスを踏んだ調査が必要です。

画像:科学的特性マップ(九州エリア)

3段階の調査を重ねる最終処分地の選定プロセス

その場所が地層処分に適しているかどうかを判断するには「文献調査」、「概要調査」、「詳細調査」の3段階の調査が行われ、処分施設の建設に適した場所を絞り込んでいきます。

「文献調査」では、地質図などの文献・データ、学術論文、過去の工事記録、古文書に記載された天災の記録などを調べ、処分場建設地として不適切な地層状況がないかを確認します。既存の文献のみの調査で、ボーリング等の現地調査は行われません。

「概要調査」では、ボーリング調査や物理探査(注)、地表踏査などを行い、坑道の掘削に支障がないこと、活断層、破砕帯、地下水の流れが地下施設に影響を及ぼす度合いなどを調査します。

「精密調査」では、「概要調査」よりも高精度かつ緻密にボーリング調査、物理探査、地表踏査などを実施します。その後、地下に調査坑道(トンネル)を掘り、岩盤や地下水の状況調査や、さまざまな試験が行われます。

(注)人工的に発生させた地震波や電磁波等を利用して地表や水上などから地質構造や地質性状を間接的に調べる方法

画像:調査で行われる物理探査・ボーリング調査

これらの調査は、地域の皆さまに十分に説明し、意見を聴きながら進められます。また、調査を次の段階に進める際には、法律に基づき、必ず地域の意見を聴き、十分に尊重することとなっています。地域の意見に反して次の段階へ進むことはありません。よく「一度、調査を受け入れたら地元の意見に関係なく処分場にされてしまうのではないか」という話を聞きますが、これは大きな誤解です。最終的に地域の反対があれば処分場になることはありません。

現在、「文献調査」が行われているのは北海道の寿都町と神恵内村の2自治体だけですが、より処分地に適した場所を選定するには、10~20カ所の候補地があるのが理想です。文献調査で5~10カ所に絞り込み、概要調査で3~5カ所へ絞り込み、詳細調査で最も適している場所を選定するのが理想です。

調査受け入れの可否については、住民の方々の間には「地域振興のために必要」といった意見や、「風評被害が心配」といった意見など賛否両論があるようです。

最終処分の事業規模は、大事業だった青函トンネルの数倍の規模があるという試算もあります。しかも最先端の科学技術と人材が地域に集まり、100年以上続く事業です。少子高齢化が進み、産業が衰退する地域では、大きな産業の起爆剤にもなりえます。安全性の問題はもちろん重要ですが、地域の将来をどうするかといった幅広い視点から最終処分地の問題を考えていく必要があるのではないでしょうか。寿都町と神恵内村では、自治体の知名度が上がり、ふるさと納税が増え、地域の海産物もより売れるようになったという話も聞きます。

画像:処分地選定プロセスについて

高レベル放射性廃棄物の最終処分は自分たちの問題

最終処分の問題はどこか遠い国の話ではありません。高レベル放射性廃棄物はいわば電気のごみで、自分たちが使って出したごみなのです。快適な現代生活を享受しながら、コンセントの向こう側については無関心というわけにはいきません。次の世代に負の問題を残さないよう、ぜひ我がこととして考えてもらいたいと思います。

処分地選定の調査には20年程度かかり、その後の施設の建設にはさらに時間がかかります。一方で、六ヶ所村での保管期限が迫っており、残された時間がだんだんと少なくなっています。我々の世代で解決すべき問題だと考えます。

地層処分を行うことは世界共通の考え方であり、フィンランドでは処分場の建設が始まり、スウェーデンやフランスは処分地を選定しました。中国やスイスなどでも調査が進んでいます。対して日本では、ここ20年ほど選定作業がほとんど進んでいないのが現状です。国を挙げた取組の強化が求められています。

処分場の危険性はゼロとは言いませんが、日常生活で事故に遭う可能性よりは遥かに低いと考えられます。放射能というだけで遠ざけるのではなく、正しい知識を身につけて、リスクを正確に判断してほしいと思います。

(取材日:2023年7月21日)

写真:出光 一哉氏
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