67号 さらなる活用に向けた原子力政策の新たな方向性~原子力発電所の運転期間の延長に向けて~

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(2023年3月発行)
画像:TOMIC67号 2023年3月発行

九州大学大学院工学研究院/エネルギー量子工学部門 教授
守田 幸路 (もりた こうじ)

1987年、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。1989年、同大学大学院総合理工学研究科エネルギー変換工学専攻修了。同年、動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センター入所。1998年、九州大学にて工学博士取得。同大学工学部助教授、ドイツ・カールスルーエ研究センター研究員を経て、2012年より現職。

2022年末、原子力政策に関して新たな動きがありました。経済産業省・総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会で「今後の原子力政策の方向性と実現に向けた行動指針(案)」がとりまとめられました。その後、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」(議長=岸田首相)で日本のエネルギー安定供給とカーボンニュートラルの実現に向けた基本方針である「GX 実現に向けた基本方針(案)~今後10年を見据えたロードマップ~」が策定されました(2023年2月10日に閣議決定済)。これまでの政府の原子力政策を転換し、原子力の活用に大きく舵を切ることになります。今回は、原子力発電所の運転期間の延長を中心に、これらの一連の動きについて、原子力分野を専門とする九州大学大学院教授の守田幸路氏にお話を伺いました。

印刷用ファイル(2,342KB)

GX実行会議で示された基本方針(案)

日本のエネルギー安定供給とカーボンニュートラル実現に向けて、原子力政策では次のような基本方針が示されました。

@安全を最優先に再稼働に向けて、関係者の総力を結集する
A運転期間の延長など既設原子力発電所を最大限に活用する
B次世代革新炉の開発・建設を進める
C再処理・廃炉・最終処分のプロセスを加速する
Dサプライチェーンの維持・強化に対する支援を拡充するなど

このことは、政府が原子力発電所を最大限活用しようという方向性を明確に示したことになります。

原子力政策の転換とその背景

原子力政策が方向転換した背景には、原子力発電の設備容量が2040年以降に急激に減少する見通しがあります。「2030年度におけるエネルギー需給見通し」によると、2030年度の電源構成比率のあるべき姿として20~22%を原子力発電としていますが、建設中を含む国内の原子力発電36基すべてが80%の稼働率で運転した場合、ようやく原子力発電の割合は20%となります。しかし、これらすべてが40年で運転終了となると、2030年頃には設備容量が現在の半分に減り、2040年頃には2割程度にまで落ち込んでしまいます。仮にすべての原子力発電所が60年運転したとしても、2040年以降には設備容量が急激に減少する見通しです。

画像:既設炉設備容量の推移見通し(2021年10月)

原子力発電所の再稼働がなかなか進まないことも影響しています。国内には建設中を除くと33基の原子力発電所がありますが、このうち2013年に施行された原子力規制委員会の新規制基準に合格して再稼働したのは10基にすぎません。残りの23基は審査の長期化などによって停止期間が10年以上となっています。また再稼働した原子炉でも、関西電力(株)の高浜3・4号機などは、裁判所の仮処分命令を受けて運転を停止した期間があります。

国民の負担を最大限に抑制しつつ、エネルギー安定供給と2050年カーボンニュートラルを実現していくためには、実用化されている原子力発電の技術や設備を活用していくことが重要です。

原子力活用のために取り組むべき短期的な課題

短期的課題としては「再稼働への総力結集」と「既設炉の最大限活用」があります。

「再稼働への総力結集」としては、福島第一原子力発電所での事故を教訓に安全向上に取り組んでいく技術・人材の維持・強化、必要なリソースの確保など関係者がしっかりと再稼働に取り組むことが大切です。

「既設炉の最大限活用」では、運転期間の取扱いに関する仕組みの整備と、設備利用率の向上が必要ですが、前者については次のとおりです。

@原子力発電所の運転期間に関する国内の状況

もともと日本には原子力発電所の運転期間に関する定めはありませんでしたが、福島第一原子力発電所の事故を契機に、法律(原子炉等規制法)が改正されて運転期間は40年と明記されました。ただし、原子力規制委員会の認可を受ければ20年を超えない範囲で1回に限り延長できます。この40年という期間は安全性を基に決められたものではなく、適切な保守管理を行えば長期間運転した発電所でも高い安全性を確保することができます。すでに60年運転が認可された原子力発電所(関西電力株浜3号機、高浜1・2号機等)もあり、九州電力鰍ナも2022年10月、川内1・2号機の延長を申請し、現在国の審査が行われています。

原子力事業者は運転期間延長申請にあたって、取り替えが困難な原子炉容器や原子炉格納容器、コンクリート構造物の劣化状況を把握し、評価したうえで運転開始後60年時点においても問題ないことを確認する必要があります。この評価結果を踏まえて、運転開始40年以降20年間に実施すべき施設管理の方針を定める必要があります。

画像:特別点検対象部位

A原子力発電所の運転期間に関する海外の状況

海外に目を移すと、アメリカは運転期間が40年と定まっていますが、運転延長の申請が認められれば20年間の延長が可能で、申請回数には上限がありません。すでに運転92基中50基が40年を超える運転を行い、6基が80年運転の認可を取得しています。

また、イギリス、フランスでは一律の上限は設けず、10年ごとに義務づけられた安全審査で安全性が確認された原子炉について運転を認めています。フランスでは、運転56基中20基が40年を超える運転を行っています。

画像:各国における原子力発電所の新規建設と運転期間の延長に向けた動き

B運転期間延長に関する政策見直しの状況

経済産業省では運転期間の延長に向けて検討を進めていましたが、現行の「40年+20年」をベースに事業者が予見し難い理由による停止期間(法制度の変更、行政指導、裁判所による仮処分命令など)を運転期間から除外し、60年超運転を可能とする案を策定しました。[運転期間40年+延長期間20年(1回限り)+α(予見し難い停止期間)]

また、原子力規制委員会でも運転開始30年後の設備の劣化状況の審査や10年ごとの審査など、延長を認可する新たな制度を検討しています。

今後、関連する法律が改正される予定です(2023年2月28日閣議決定済)。

C設備利用率(注)の向上

原子力発電所の設備利用率は、東日本大震災以前の1981~2010年度は約73%でしたが、震災を契機に大きく落ち込み、震災後再稼働した原子力発電所の設備利用率は、2020年に約50%でした。アメリカの設備利用率は1970年代には日本より低い状態でしたが、1990年代に日本を抜き、直近では90%前後となっています。

対応策として、定期検査の効率的実施、運転サイクルの長期化があげられます。現在の定期検査に要する期間は平均約90日ですが、安全性を確保しつつ、効率的に検査する方策を検討する必要があります。また、定期検査の間隔は法令上で3つの区分(13カ月以内、18カ月以内、24カ月以内)が規定されていますが、国内ではすべての炉が13カ月以内に区分されていて、より柔軟な対応を考えることも必要でしょう。

このように既設原子力発電所の有効活用の余地はまだ残されているといえます。

(注)発電所の稼働状況を表す指標 年間の設備利用率(%)=実際にその1年間で発生した発電電力量(kWh)÷[定格電気出力(kW)×365日×24時間]×100。

原子力活用のために取り組むべき長期的な課題

将来を見据えた中長期的な課題としては「次世代革新炉の開発・建設」や「再処理・廃炉・最終処分プロセスの加速化」などがあります。

(1)次世代革新炉の開発・建設

次世代革新炉としては、@大型の革新軽水炉、ASMR(小型モジュール炉)などの小型軽水炉、B高速炉、C高温ガス炉などがあります。

このうち@とAは、現在利用されている軽水炉の技術をベースに安全性などを強化したもので、比較的短期間で実用化が期待されています。特に@は、技術的熟成度が高く、2030年代前半の建設開始、2030年代中盤以降の商用炉の運転開始を目指しています。Aは欧米でのプロジェクトが先行していますが、大型炉に比べて冷却しやすいなどの安全上の特徴があり、シンプルな構造で初期投資が低いなどのメリットがあります。また、Bは、核燃料サイクルの有効活用に資すること、使った燃料以上の燃料を増殖することも可能であることから、2040年代半ばの実証炉の運転開始を目指しています。Cは、炉心溶融を起こさない安全性と900℃以上の熱を利用できる特徴があります。発電だけでなく、高温熱源を利用したカーボンフリーの水素製造が期待でき、2030年代半ばの実証炉の運転開始を目指しています。

画像:国際連携による革新炉プロジェクト

(2)再処理・廃炉・最終処分プロセス加速化

我が国では、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減・資源の有効活用といった観点から核燃料サイクルの推進を基本方針としています。また、高レベル放射性廃棄物の最終処分などを含むバックエンドは、長期的に原子力を活用していく上で、今後も継続的に対応を強化していかなければならない課題です。

(3)サプライチェーンの維持・強化

もう一つ重要な課題が「サプライチェーンの維持・強化」です。原子力を持続的に活用していくためには、原子力産業を支えるサプライヤーが欠かせません。しかし、新規の原子力発電所の建設が途絶えると、原子力産業から撤退する企業が増えサプライチェーンの維持が難しくなります。また、原子力を専攻する学生の減少など人材の確保も難しくなります。重要な国産の原子力技術を維持するためにも海外プロジェクトへ参画するなど、サプライチェーンを支援していく必要があります。

不透明なエネルギー情勢のなか、カーボンニュートラルを達成するために

日本はもちろん、世界においても脱炭素化社会の実現に向けた動きが強まっています。一方で、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、世界のエネルギー情勢は混迷を深め、エネルギー価格の上昇は一過性のものにとどまらない可能性があります。このため、各国は中長期的な脱炭素化とエネルギーの安全保障を両立するための政策を模索しています。

例えばヨーロッパでは、EUタクソノミーに原子力・天然ガスを含めることを2022年7月に決定しました。EUタクソノミーは、企業の経済活動が地球環境にとって持続可能であるかどうかを判定し、グリーンな投資を促すEU独自の仕組みです。これは、再エネを中心とした未来のエネルギーへの移行を促進するために、原子力や天然ガスも一定の役割があることを意味しています。脱原子力政策の見直しや原子力利用の拡大など各国の事情に合わせたエネルギー政策の見直しが進められています。

日本においても、安価な低炭素エネルギーであり、ベースロード電源として安定供給に貢献する原子力が、脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に果たす役割はますます大きくなると考えます。

(取材日:2022年12月27日)

写真:守田 幸路氏
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