65号 持続可能社会の実現に向けた先進的な発電技術の取り組み

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(2022年3月発行)
画像:TOMIC65号 2022年3月発行

三菱重工業株式会社/シニアフェロー/エナジードメインエナジートランジション&パワー事業本部 SPMI(注)事業部長
石瀬 史朗 (いしせ しろう)

1981年、静岡大学工学部卒業。1983年、静岡大学大学院工学研究科修了。同年、三菱重工業株式会社入社(長崎造船所機械総括部火力プラント建設部)。その後、三菱日立パワーシステムズ株式会社入社常務執行役員、三菱パワー株式会社入社常務執行役員を経て、2021年10月より現職。
(注)SPMI:Steam Power Maintenance Innovation

世界的な脱炭素化へ向けた動きの中で、CO2排出量が多い火力発電の是非が大きく問われるようになっています。一方で、世界的にはまだまだ火力発電の数、役割とも大きく、これを一律に廃止縮小してしまうことが最善策とはいえません。今回は、三菱重工業株式会社で長く火力発電プラント部門を担当してこられた石瀬史朗氏に、同社が持つ世界有数かつ最新の火力発電技術等をご紹介いただき、脱炭素化社会に貢献する企業姿勢について語っていただきました。

印刷用ファイル(3,300KB)

電力の安定供給を支えた火力発電

化石燃料による火力発電は、石炭→石油→LNGと変遷しながら、長い間、貴重な電力供給源として活躍してきました。2019年度でも、電力供給量の7割以上を占めています。

特に、東日本大震災以降、停止した原子力に代わり、電力の安定供給や災害時の電力レジリエンスを支えてきた重要な供給力です。加えて、再エネの導入が拡大するなかで、再エネの出力変動を吸収し、需給バランスを調整する調整力や、急激な電源脱落における周波数の急減を緩和しブラックアウト(広域停電)の可能性を低減する慣性力といった機能により、電力の安定供給に貢献しています。

一方で、CO2を排出するという課題もあり、国の第6次エネルギー基本計画(以下基本計画)では、できる限り電源構成に占める比率を引き下げることになっています。

火力発電には、脱炭素化に向けて、燃料を水素・アンモニアに転換することや、排出されるCO2を回収・貯留・再利用することで脱炭素化を図ることが求められています。

わが国の脱炭素への取り組みを先取りする企業姿勢

2020年10月、政府は2050年カーボンニュートラル(注1)を目指すことを宣言しました。さらに2021年4月には2030年度温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針を示しました。

このようななか、当社では、政策を先取りする形で、グループのCO2排出量を2030年には50%減(2014年比)、2040年にネット・ゼロを、またバリューチェーン全体でもそれぞれ2030年に50%減(2019年比)、2040年にネット・ゼロを目指す「2040年カーボンニュートラル宣言」を公表、NET ZEROの未来に向けて行動することを明確にしました。

注1:温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いて実質ゼロにすること。

画像:「MISSION NET ZERO」のスローガン

脱炭素社会に貢献する当社の先進的な低・脱炭素化技術

2050年カーボンニュートラルの実現には、今後も、低・脱炭素火力発電やCO2回収・転換利用前提の火力発電の活用が欠かせません。そのほか、クリーンな燃料電池や各種デジタルソリューション等、カーボンニュートラル、3E+Sに資するための最新技術を使ったソリューションの一部をご紹介しましょう。

(1)GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル発電)と水素発電

GTCCは、航空用エンジンと同じ原理を利用するガスタービンでの発電に加えて、その排熱を利用して発生する蒸気を利用した蒸気タービンでも発電するシステムで、高い発電効率を実現しています。最新鋭のGTCC発電プラントでは、発電効率が世界最高水準の64%以上であり、従来型の石炭焚き火力発電方式より20%ほど高く、CO2排出量もおおよそ65%削減することができます。

さらに、現在開発が進められているのが、天然ガスに代えてクリーンな燃料である水素を燃料とする発電技術です。水素は天然ガスに比較して火炎の伝搬速度が速く、燃焼器内の火炎が燃料の混合部に逆戻りする「逆火」が起こりやすいなどの課題がありますが、当社は既存の発電設備に対し最小限の改造で適用可能な水素焚きガスタービンの開発を進めています。世界各国で水素発電プロジェクトが計画され、当社が参加しているオランダのプロジェクトは2027年、英国のプロジェクトは2026~27年に水素燃料による発電を目指しています。また、米国ユタ州のプロジェクトでは水素での発電を2025年に開始することに加え、再エネ由来(余剰太陽光発電など)の電気で製造したグリーン水素を圧縮して貯蔵する、先進的クリーンエネルギー貯蔵事業にも参画しています。

GTCC = Gas Turbine Combined Cycle

画像:GTCCの仕組み

(2) 固体酸化物形燃料電池(SOFC)

当社の燃料電池システム"MEGAMIE"は、クリーンで高効率な発電システム(注2)で、発電時の熱から蒸気や温水を取り出して利用できるなど、高い発電効率と資源の有効利用に優れたシステムです。また、水素、バイオガス、副生ガス等多様なガスを燃料として使うことができ、さらに、レジリエンスや緊急時対応の分散型電源としても期待できます。

すでに、国内はもとより海外での実用化も進められています。

注2:燃料電池とは「水素」と「酸素」を化学反応させて、直接「電気」を発電する装置。発電と同時に発生する熱を活かすことでエネルギーの利用効率を高められます。

画像:SOFC「MEGAMIE」

(3)アンモニア発電

従来、肥料など農業分野で利用されていたアンモニアは、燃焼時にCO2を排出しないカーボンフリー燃料として基本計画にも活用が明記されるなど、水素とならんで近年大きく注目を集めていますが、燃焼時に窒素酸化物(NOx)が発生することや、メタンと比較して燃焼速度、火炎温度等が低く、燃焼の安定性などに課題があります。近年は火力発電におけるアンモニア燃焼の研究が進み、燃焼速度が石炭に近いことから石炭火力でのアンモニア混焼や、専焼化を見据えた研究開発が行われています。

当社では、アンモニアの専焼が可能なバーナの開発に取り組んでいます。このバーナを既存の石炭ボイラーに導入し、バーナの本数を増やすことにより混焼率を増加させることが可能となります。これにより、既存発電所でのアンモニアの高混焼化が実現可能となり、来たるべき燃料アンモニアの導入拡大に向けて、大きく貢献できると考えています。

(4)バイオマス関係

バイオマス(再生可能な生物資源(注3))を燃料として発電を行うバイオマス発電は、石炭火力発電所等で木質ペレット、間伐材、建築廃材等を燃料として石炭と混焼することにより、低炭素化に即効性のある手段として、ヨーロッパを中心に利用が進んでいます。最近は、既存ボイラーを改造してバイオマス転換するニーズが国内外で高まっています。

バイオ関連としては、バイオジェット燃料もあります。航空業界でも脱炭素のニーズが強まっており、SAF(持続可能な代替航空燃料)としてバイオジェット燃料に注目が集まっています。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業における4社(当社、JERA、東洋エンジニアリング、伊藤忠商事)共同プロジェクトでは、当社のバイオマス原料のガス化技術を軸にして木質バイオマス由来のSAF製造実証およびサプライチェーン構築に取り組み、2021年6月には木質バイオマス由来SAFを国内旅客便に世界で初めて供給しました。

注3:植物は燃やすとCO2を排出しますが、成長過程では光合成により大気中のCO2を吸収するため、排出と吸収によるCO2のプラスマイナスはゼロになります。

画像:バイオマス燃料

(5)IGCC(石炭ガス化複合発電)

石炭に「酸素」あるいは「空気」と「熱」を加えて蒸し焼きにすることで、一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主成分とする「燃焼ガス」が生成され、これを燃料とし、先ほど説明したGTCCを組み合わせることで、発電効率と環境性能を向上させた次世代の石炭火力発電システムです。従来型の石炭火力発電方式と比べて発電効率が約15%向上し、CO2の排出量も削減することができます。

2021年には、福島県の勿来(なこそ)IGCC発電所および広野IGCC発電所が営業運転を開始し、また、広島県の大崎クールジェンプロジェクトでは、IGCCに加えて、「燃料電池」を組み合わせたトリプル複合発電を行うIGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)と呼ばれる最先端技術の実証試験に向けて準備を進めています。

IGCC = Integrated coal Gasification Combined Cycle

画像:IGCCの仕組み及びIGCCプラントCG

(6)CO2回収技術

火力発電からのCO2排出量を抑える技術として、「CCS(CO2回収・貯留)」や「CCUS(CO2回収・転換利用・貯留)」があります。「CCS」とは、発電所や工場等から排出されるCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入することです。「CCUS」とは、分離・貯留したCO2を利用しようとするものです。

当社グループの三菱重工エンジニアリングは、CO2回収技術における世界のリーディングカンパニーとして、燃焼排ガスから高効率でCO2を回収する技術・設備を国内外に供給しています。米国にある世界最大(2022年1月時点)のCO2回収プラントの事例では、石炭焚き火力発電設備からのCO2回収量4,776トン/日、CO2回収率90%を達成しています。また、英国のバイオマス発電所での脱炭素化プロジェクトでは、植物由来の燃料を使うことによりCO2排出量をネットゼロ(カーボンニュートラル)にできるバイオマス発電と、排ガスからのCO2回収技術を組み合わせて排出量を実質マイナスにするカーボンネガティブの実現を目指しています。

CCS = Carbon dioxide Capture and Storage
CCUS = Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage

Youtube:CO2回収の仕組み(紹介映像をご覧ください)

(注)出典:三菱重工エンジニアリング株式会社ホームページより

(7)デジタルソリューション

当社は、長年蓄積した発電プラントのO&M(運転・保守)データとノウハウを基に開発されたインテリジェントソリューション「TOMONITM」を活用し、よりスマートな発電プラントの実現を推進しています。

"TOMONI HUB"では、国内外の発電プラント等を最新のデジタル技術で結んで遠隔監視し、当社で蓄積した運転・保守の知見・ノウハウ等を駆使して発電所の稼働率・性能向上、運用改善等を図り、設備の価値向上と脱炭素社会の実現に役立つサポートを提供しています。

当社では自動自律プラントの実現等により、変化の激しいカーボンニュートラル社会へ発電プラントがスマートに対応できるよう、開発を進めています。

画像:デジタルソリューション

カーボンニュートラル社会実現へ最大限の貢献を目指して

写真:石瀬 史朗

石炭火力発電をはじめ化石燃料に対しては世間の厳しい目が向けられていますが、それと並行して現在の生活に必要な電力を安定的・経済的にどのように賄うのかということについてはあまり注目されていません。もちろん、火力発電の比率を下げていく今後の方向性については理解していますが、電力の供給安定性や経済性とのバランスを維持しながら、脱炭素社会への移行を実現する技術の一つとして、低・脱炭素化火力発電やCCS・CCUSの有効活用も不可欠ではないでしょうか。

2021年に公表された基本計画では、エネルギーミックスにおける火力発電の割合が以前よりもかなり引き下げられましたが、当社はむしろこれを好機ととらえ、前向きに取り組んでいきたいと考えています。例えば、CO2排出量が多い石油化学・製紙・鉄鋼・セメントなどの産業分野では化石燃料使用の自家発電用ボイラーを利用していますが、これらをすぐに再エネ等の脱炭素電源に切り替えることは容易ではありません。既存インフラを生かしつつ、ご紹介したような最新技術を使ったソリューションを提供することで、エネルギーの脱炭素化と電力の安定供給を実現し、着実な脱炭素社会への移行に貢献できると考えています。

世界の国や地域は、産業構造、経済の習熟度、環境への影響、既存インフラなどの事情がそれぞれ異なります。サステナブルなエネルギーインフラを実現するためには、各国・地域の特性に適したソリューションが必要で、低・脱炭素技術を備えた火力発電も、それを支える大切なエネルギー源の一つです。カーボンニュートラル社会を実現するために、各国・地域のニーズに寄り添いながら最新技術を活かしていきたいと考えています。

画像:「サステナブルな社会の実現に向けたコミットメント」
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