74号 フュージョンエネルギーの現状と今後について ~次世代エネルギー・核融合発電への期待~

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画像:大山 直幸(おおやま なおゆき)

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 経営企画部 第3研究企画室 室長
大山 直幸(おおやま なおゆき)

1999年、筑波大学大学院物理学研究科修了、博士(理学)取得。同年、日本原子力研究所(現・量子科学技術研究開発機構)入所。臨界プラズマ試験装置JT-60における計測装置開発や核融合プラズマの制御研究・高性能化研究に従事。

日本および世界の新たなエネルギー源として期待されているのが核融合=フュージョンエネルギーです。2025年の「第7次エネルギー基本計画」においても、将来の脱炭素電源の有望な選択肢に位置づけられています。まだ一般に馴染みのないフュージョンエネルギーですが、どのような仕組みで、どの段階まで開発が進んでいるのでしょうか。世界最大級の核融合実験装置JT-60SAを持ち、国際プロジェクト「ITER計画」にも参加する量子科学技術研究開発機構(QST)の大山直幸氏にお話を伺いました。

地球環境問題やエネルギー問題に貢献する核融合とは?

昨今の異常気象が示すように世界では地球温暖化が大きな問題となっています。また日本は資源のほとんどを海外からの輸入に依存しており、エネルギー自給率は16.4%(2024年度)しかありません。この地球環境問題とエネルギー問題を同時に解決できると期待されるのが新しいエネルギー源であるフュージョンエネルギー、いわゆる核融合です。

核融合とは、軽い原子が結合し、より重い原子に変わるときにエネルギーを放出する反応です。最も身近な例として太陽があり、太陽では4つの水素がヘリウムに変わる反応が起こっています。そのエネルギーは100万kW級発電所の40京(40万兆)基分という莫大なものです。地球上では4つの水素の代わりに重水素と三重水素(トリチウム)を燃料に使って反応させ、ヘリウムと中性子に変化させます。

核融合を起こすためには燃料同士が結合しなければなりませんが、原子核はプラスの電気を帯びているため通常では反発し合って結合しません。そこで数億度以上に温度を上げて燃料を電子とイオンに分離したプラズマ状態にします。この状態では飛び回る速度が速くなり、反発する前にぶつかって結合するようになります。さらに燃料がバラバラにならないようドーナツ型の磁力線の器に閉じ込めてしまうことで核融合を発生させます。

核融合発電炉の仕組みとエネルギー源としての課題

QSTが取り組んでいるのはトカマク型と呼ばれる核融合発電炉で、現状ではプラズマを閉じ込める能力が最も性能が高いとされています。ドーナツ型の容器にプラズマを閉じ込め、外側に複数のリング状の電磁石コイルを設置、プラズマの中に電流を流すことでねじれた磁力線を作り出します。ねじれた磁力線を作ることが核融合のポイントの一つです。核融合で放出される中性子はエネルギーを持っているので、この中性子をブランケット(周辺壁)で受け止めて熱を取り出し、蒸気発生器を通じてタービン発電機を動かす仕組みになっています。この方式は閉じ込め性能が高く、核融合反応に必要な条件のプラズマ生成に成功しています。そのため、後述する「ITER計画」にも採用されています。

画像:トカマク型核融合発電炉の仕組み

トカマク型核融合発電炉の仕組み(出典:QST提供)

核融合炉にはいくつかのタイプがあります。QSTにあるJT-60SAはトカマク型で、これと類似したようなタイプとしてヘリカル型があります。この型は、外側にねじれたコイルを巻き付けることでねじれた磁力線で磁場のかごを作り出します。この方式は長時間運転に優位性があるものの、プラズマの閉じ込め性能に課題があるといえます。国内では核融合科学研究所に大型ヘリカル装置LHDがあります。

まったく違う考え方で核融合を行うのがレーザー方式です。重水素とトリチウムを入れた燃料カプセル(ペレット)にレーザーを当てることで、中心部が超高温・超高密度となり核融合を起こすものです。大阪大学の激光ⅩII号・LFEXがこれに該当します。

核融合反応そのものは実験に成功していますが、これをエネルギー源として利用するにはまだ課題があります。まず使ったエネルギー以上のエネルギーを得られないと発電所としては成立しません。核融合炉は磁場コイルや加熱装置等の周辺装置を動かすために電力が必要なので、使った電力以上のエネルギーを得る必要があるという課題があります。また中性子を受け止めるブランケットには寿命があり、どのような材料がいいのか、どのくらい耐用年数があるのかを見極める必要があります。さらに燃料となる重水素は海水中に存在していますが、三重水素は天然には存在しないため、三重水素を効率的に生成する方法を確立していく必要があります。こうした課題についてQSTでは研究を重ねています。

固有の安全性を持つフュージョンエネルギーの可能性

核融合は、現在の原子力発電で利用されている核分裂とどう違うのかという疑問を持つ人も多いでしょう。核分裂は重い原子核が分裂してエネルギーを発生させます。炉の中には数年分の燃料が置かれ、次々に連鎖反応が起こるため、制御棒など安全に運転管理・制御するための工夫が必要です。一方の核融合は必要な量だけの燃料を入れて運転し、連鎖反応は起こりません。そのため燃料を止めれば反応は自然に止まります。また核分裂では高レベル放射性廃棄物が出てしまいますが、核融合で出てくるのは低レベルの放射性廃棄物で、およそ100年で一般物として扱えるようになります。このように核融合は固有の安全性を持っているのです。

画像:核分裂炉とフュージョンエネルギーの違い

核分裂炉とフュージョンエネルギーの違い(出典:QST提供)

フュージョンエネルギーの燃料となる重水素やリチウム(三重水素の原料)は海水から採取することができ、いわば無尽蔵です。燃料を止めれば反応が止まり、燃えかすとして出てくるのは無害なヘリウムなので、環境に優しく安全なエネルギーと言えます。またエネルギー効率が高く、少量の燃料で多くのエネルギーを生み出すことができます。燃料1gが生み出すエネルギーは石油8t分に相当します。こうした特徴から環境問題やエネルギー問題の根本的な解決になると期待されているのです。

世界的にも重要な核融合実験装置JT-60SAの役割

QSTでは1985年に運転を開始したJT-60で世界最高イオン温度5.2億度を達成し、その後継機であるJT-60SAで2023年にプラズマ体積の世界記録を樹立しています。このJT-60SAにはいくつかの重要な役割がありますが、その一つが国際プロジェクト「ITER計画」の先導的支援研究を行うことです。

ITERは南フランスに建設中の大型のトカマク型核融合炉で、中国、欧州連合(EU)、インド、日本、韓国、ロシア、米国の7極が機器を分担して製作しています。現在はJT-60SAが世界最大のトカマク型核融合炉ですが、ITERが完成すればこちらが世界最大となります。計画当初から参加している日本は最先端の機器製作を任されており、ここでの知識や経験は産業界にも蓄積されていくものです。

画像:フュージョンエネルギー(原型炉)への開発の道筋

フュージョンエネルギー(原型炉)への開発の道筋(出典:QST提供)

このITERに先駆けてJT-60SAで運転のノウハウや知見を得ることで、ITERでの運転の最適化や目標達成がより容易になると考えられます。また、ITERとともに商業用の原型炉の実現に向けた運転手法の開発を行うことも重要です。ITERではできない高出力運転の信頼性に関する実証試験など、ITERを補完する形で原型炉の開発を支援していきます。さらに今後の核融合炉を研究・運用する人材育成の役割もあります。そのためITERのあるヨーロッパとは相互に人材交流を行っています。

国家戦略としてのフュージョンエネルギーへの期待

2023年4月にフュージョンエネルギー・イノベーション戦略が策定されました。これは日本で初めてのフュージョンエネルギーに関する国家戦略で、フュージョンエネルギーを新たな産業として捉え、世界のサプライチェーン競争に日本も時機を逸せずに参入しようというものです。

これを受けてQSTでも培った技術の民間への移転を進める取り組みが進んでいます。具体的には所有する施設・設備の民間への供用を行うために、窓口を一本化したオープンイノベーション総合窓口を2023年に設置しました。QSTにはJT-60SAのある茨城県の那珂フュージョン科学技術研究所だけでなく、ブランケットの研究などを行う青森県の六ヶ所フュージョンエネルギー研究所など複数の施設があります。

現時点での政府の目標では、世界に先駆けた2030年代の発電実証を目指しています。QSTで検討している原型炉「Q-DEMO」では、2030年代に発電を実証し、その後に燃料増殖の実証を経て、2050年頃には定常運転を目指す計画となっています。

自給率の低い日本には重要なエネルギーになりうる

フュージョンエネルギーはエネルギー自給率の低い日本において、今後重要なエネルギー源になることが期待されます。ただし初期の段階ではどうしてもコストが高くなるので、普及のためには政府による支援が欠かせないと考えます。

将来的な核融合発電所の立地については、新たな立地に建設するだけでなく、原子力発電所の跡地やリプレースも考えられると思います。先にお話ししたように発電のためにはタービン発電機などの周辺機器と、それらを動かすための電力が必要です。すでに機器が設置され、送配電網のある発電所であれば建設コストも少なくてすみます。また原子力発電よりリスクが少ないと考えられるため、立地の要件も緩和できる可能性があります。

現状では民間にノウハウがないため、核融合炉を運用する人材の育成も必要です。また誰が運営するのかという課題もあります。さらに保守やメンテナンスについても考える必要があります。実験炉ではメンテナンスで炉が停止している時間が長くても支障ありませんが、収益を求められる商業炉ではそういうわけにいきません。フュージョンエネルギー実現のためには、これらの問題を解決していかねばなりません。

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