Vol.22 生きる力を育むエネルギー環境教育

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高木 利恵子 氏

エネルギー広報企画舎 代表
高木 利恵子 氏

エネルギーに関する正しい知識を身につけるには、子ども時代からの教育が重要になります。現在ではESD教育(持続可能な開発のための教育:Education for Sustainable Development)とも位置づけられるエネルギーについての教育に、どのように向き合えばいいのでしょうか。佐賀県を拠点にエネルギー広報活動を展開している高木利恵子氏に伺いました。

エネルギーについて知ることの大切さ

私はエネルギーに関する広報活動を通じていろいろな方とエネルギーについて話す機会があります。その活動の中で、「原子力や放射線は良く分からない危険なもの」と認識している方が多くいらっしゃることを感じてきました。これは、原子力や放射線のメリット、デメリットのうち、デメリットが強く印象に残るからだと思います。放射線はもともと自然に存在するもので、わたしたちもその中で生活していますが、東京電力福島第一原子力発電所の事故の前まで、そのことは一般の方にはあまり浸透していませんでした。ですので、放射線の存在を意識していなかったところに、急に環境放射線量の数値を示されて、「危険だ」と感じてしまった方も多くいらっしゃるでしょう。自然放射線のことや医療、産業界等での放射線利用の実態など基礎的な知識を持っていたら、受け止め方が少し違ったかもしれません。

一般の人が技術者や専門家のように放射線の詳細を理解するのはとても難しいことです。しかし、何となくでも知ってみれば、難解だと思っていたことに対する抵抗感が薄れるのではないかと思います。抵抗感がなくなると興味を持てるようになったり、時にはさらに知りたくなったりもするでしょう。そうやって少しずつ知識を増やしていけばいいと思います。

私は大学で原子力工学を勉強した後、電力会社でエネルギー広報の仕事に携わりました。こうした経験を活かそうと、現在は独立してエネルギーに関する広報活動を行っています。エネルギーの大切さや課題だけでなく、学生時代に自分が感じた科学の面白さを、次の世代にも伝えていきたいと思ったことが活動の原点です。そのため、開催する科学教室や出前授業などでは、実験を取り入れたり身近な事例を用いたりして、体感していただくことを大切にしています。また、相手の立場や興味の深さに寄り添いながら、一つでも新しい発見を得ていただくことを心がけています。

画像:エネルギーに関する広報活動の様子

持続可能な社会を創るためのESD

ESDとは持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)のことです。学校教育における現在の学習指導要領において「持続可能な社会の創り手の育成」が掲げられ、ESDの理念が組み込まれています。

画像:ESDに基本的な考え方

ESD教育のテーマのひとつにエネルギーがあります。電気やガスなどのエネルギーは私たちの身近な存在であり、子どもにも理解しやすいテーマです。さらに、世界的な課題から各地域固有の事情もあります。地理、政治、経済など幅広い視点で学ぶことができ、地域の特色を活かした教育内容にも取り組めます。

一方、このようにエネルギー問題は背景の幅が広く複雑なテーマなので、教える先生方にとっては資料集めなどの準備が大変で大きな負担となりかねません。こうしたテーマは学校内だけで実践しようとしても限界があります。そんな時は、地域の人々や事業者、自治体などの力を借りてはいかがでしょうか。また、小学校・中学校・高校といった校種を超えた連携も有効です。地域の総合力を発揮した、より充実した教育に取り組めるようになり、地域の特性に応じた内容にしやすくなるでしょう。

実践の場として大切な家庭の役割

学校で学んだことを実践することも重要です。子どもたちが学校で学んだ知識を実践する場として家庭の役割は大きいと思います。

家庭で実践しながら学びを深める題材としてもエネルギーは最適です。電気やガスなどのエネルギーは子どもたちにとっても身近な存在ですから、電気やガスが止まるとテレビが見られない、ゲームができない、お風呂に入れない、料理ができないなど、子どもたちも自分のこととして具体的に考えることができます。電気やガスが果たしている役割や、使い続けられるようにするにはどうすればいいのか、家庭で話し合ってみるのもいいでしょう。毎日の食卓で今日の出来事を話すように、エネルギーのことを気軽な話題として話せるようになってほしいと思います。

家庭で学ぶ時に大切なことは、たとえ親子であってもお互いに学び合う姿勢を持つことです。人生経験が豊かな大人でも、知らないことがあっても不思議ではありません。子どもの言うことだからと最初から否定せず、知らないことも素直に受け入れるようにしましょう。また、家族で一緒に楽しみながら学ぶことも大切です。例えば、親子で参加する科学実験教室などで、子どもより親の方が夢中になって工作をしていることもあります。大人の方も、子どもと同じ視点に立って、同じことに気づき、学ぶ機会となるかもしれませんので、ぜひ子どもと一緒に楽しみながらチャレンジしてみてください。

親子で勉強すると学習効果が高いともいわれます。家庭の中で親子一体となって何かに取り組むことはお互いの成長に繋がります。知らないことや興味がないことのニュースはスルーしてしまいがちですが、いろいろなことを学ぶことで興味のなかったニュースでも見方が変わります。大人も子どもも、学びの扉を開けることにつながるのです。

親子の写真

エネルギーを入り口に社会的課題を解決する

エネルギー問題を入り口にして、自分で調べて、考えて、判断する習慣がつけば、その習慣は違う分野でも役立つでしょう。多くの人が思考力や判断力を身につければ、社会的課題の解決も早まるのではないでしょうか。

現代は情報化社会で多くの情報が飛び交いますが、その中にはフェイクニュースなども多くあります。「誰かが言っているから」という他人に依存した、受動的な理由ではなく、自分で調べたり考えたりして、その結果をもとに自主的・能動的に判断し行動できるようになることが大切です。そうすれば根拠のない風評被害も少なくなると思います。例えば原子力の分野でも、高レベル放射性廃棄物の地層処分の問題、福島での原子力発電所事故に伴う処理水や廃棄物のことなど、多くの人が正しい知識を持てば、もう少し早く議論を重ね、前に進めることができそうなことがあります。根拠のない噂で、ものごとが停滞してしまうのはもったいないことです。

エネルギーについては「原子力か、再エネか」といった二者択一の話になりがちですが、私はいずれも必要だと思っています。エネルギー自給率が低い日本では、安全性を大前提に、エネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合をバランスよく組み合わせたエネルギーミックスが重要です。日本はエネルギー資源の乏しい国ですが、知恵や工夫で技術力を高め、人材を育ててきました。それを未来にどう繋げていくか。子ども時代からのエネルギー環境教育は重要だと考えます。

写真:高木 利恵子 氏
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