Vol.18 原子力発電と核燃料サイクルの意義

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写真:出光 一哉 氏

九州大学大学院 工学研究院 エネルギー量子工学部門 教授
出光 一哉 氏

日本は、原子力発電所の使用済燃料を再処理し、回収されるウランとプルトニウムを再利用しつつ、廃棄物の発生量を抑える「核燃料サイクル」を推進しています。日本の原子力利用のあり方を考える上で重要な「核燃料サイクル」の意義や現状、課題などについて、原子力をご専門とする九州大学工学研究院教授の出光一哉氏にお聞きしました。

原子力発電の重要性と核燃料サイクル

日本はエネルギー資源の多くを輸入に頼っており、エネルギー自給率は11.2%(注)しかありません。この自給率には原子力が含まれています。原子力発電の燃料となるウランは、一度輸入すると数年間使うことができるため、準国産エネルギーとして扱われるのです。また、脱炭素社会の実現に向けては、発電時にCO2を排出せず、安定して発電できる原子力発電は、温室効果ガスの排出削減と電力の安定供給確保の面から欠かせない電源です。

その原子力発電について、日本は「核燃料サイクル」を推進しています。「核燃料サイクル」とは、原子力発電所で使い終えた燃料から、核分裂していないウランや新たに生まれたプルトニウムなどを回収して、再び原子力発電の燃料に使う仕組みです。資源に乏しい日本では、原子力の利用について当初から核燃料サイクルの推進を基本方針とし、関連する施設や事業環境の整備・運用など様々な取組みを進めています。

(注)2020年度速報値

画像:主要国のエネルギー輸入依存度
画像:核燃料サイクル

核燃料サイクルの意義

核燃料サイクルを推進していくためには、いくつかの課題があります。ひとつは国内の再処理工場がまだ完成していない点です。日本はこれまでイギリスとフランスに再処理を依頼していましたが、今後は国内で再処理する方針です。青森県六ヶ所村に再処理工場の建設が進んでおり、すでに試験運転なども行われていましたが、福島第一原子力発電所事故を踏まえた新規制基準への対応などにより中断し、竣工遅延が続いてきました。2020年7月に新規制基準に適合していると国の許可を受け、2022年の竣工に向けて準備が進められています。六ヶ所再処理工場がフル稼働すれば最大年間800トンの使用済燃料を処理できる見通しで、早期の稼働が望まれます。

もうひとつ、原子力発電所の再稼働の問題もあります。再処理で回収したプルトニウムなどを現在の原子力発電所(軽水炉)で使用することをプルサーマルといいますが、現在国内で稼働しているプルサーマル炉は4基だけです。日本は2030年度までに少なくとも12基の原子炉でプルサーマル実施を目指していますが、そのためにはまず新規制基準に適合した原子力発電所の再稼働が必要です。

日本は核不拡散の観点から、利用目的のないプルトニウムは持たないことを原則としています。六ヶ所再処理工場では発電に利用する分だけ再処理を行うことになっていますし、海外で再処理して保有しているプルトニウムを着実に利用していくためにも、プルサーマルの導入拡大と計画的な実施が必要です。なお、将来的にはプルトニウムの利用効率などを更に高める高速炉の実用化も考えられています。

画像:核燃料サイクルの3つのメリット

核燃料サイクルの現状と課題

既存の原子力発電所は、いずれ運転を停止する時期を迎えます。将来にわたって原子力を活用するためには、発電所の新・増設も必要になります。この際に、より安全で経済性の高い原子力技術を取り入れていくことは重要で、そのための研究開発も欠かせません。

いま日本で稼働中の原子炉である軽水炉の安全性を高めていくことはとても重要です。一方で、次世代型原子炉の技術開発も進んでいます。安全性に優れ初期投資も抑えられる小型モジュール炉(SMR)、ウランの資源量が限られる中で核燃料をリサイクルして使うことができる高速炉、高温の熱を取り出し水素の製造などにも活用できる高温ガス炉などが代表的です。SMRは海外で複数の開発プロジェクトが進んでいます。高速炉は日本では原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まりましたが、日本原子力研究開発機構(JAEA)がフランスと協力して研究開発を継続しています。また、世界では、ロシア、中国を中心に開発が進んでいます。高温ガス炉はJAEAで開発が進められています。原子力発電は初期投資が大きく費用回収に長期間を要することが課題のひとつですが、小型炉はシンプルなシステムで初期投資が抑えられ、工期も短く、安全性の向上も図られており、日本にも導入される可能性があります。

原子力の安全には幅広い意味を含んでおり、福島第一原子力発電所のような事故を起こさないこと(過酷事故の発生防止)に加えて、事故を起こしたときに拡大させないこと(過酷事故の影響緩和)も重要です。事故を起こさないよう最大限努力しても、事故が起こってしまうリスクはあります。万一の場合に、影響を可能な限り小さくする技術の研究も重要です。

画像:原子燃料サイクル施設の位置

核燃料サイクルの推進には丁寧な説明を

画像:出光 一哉 氏

プルサーマルに不安を持つ人もいますが、従来から使われているウラン燃料とMOX燃料の安全性に大きな差はありません。フランスではMOX燃料の使用量が年々増えていますが、これまで事故につながったことも、問題になったこともありません。今後も引き続き核燃料サイクルの意義と安全性について丁寧に説明していく必要があると思います。それと同時に、プルサーマルの実績を地道に積み上げていくことも大切です。

そもそも使用済燃料の再処理はどこの国でもできるわけではなく、日本は核兵器保有国以外で再処理が認められている唯一の国であり、技術もあります。日本は核燃料の取扱いについては世界の優等生で、管理態勢がしっかりしており、査察への対応もきちんとしているため、国際原子力機関(IAEA)からも信頼されています。せっかく持っている権利と技術を活用し、原子力の平和利用の原則のもと再処理によるウランとプルトニウムの有効利用を行うべきだと思います。

2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画でも、核燃料サイクルを推進することが明記されました。日本のエネルギーセキュリティを高めるためには原子力発電の活用が必要ですし、核燃料サイクルを着実に前に進めることが重要です。今後も積極的な情報発信と丁寧な説明に努めて、原子力への信頼を高めることが大切だと思います。

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