Vol.17 地球温暖化と私たちの暮らし

  1. ホーム
  2. 活動内容
  3. 広報誌
  4. 広報誌:講師コラム
  5. Vol.17 地球温暖化と私たちの暮らし
画像:天日 美薫氏

一般財団法人 九州環境管理協会 技術部 品質管理課長
天日 美薫(てんにち よしか)氏

日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しましたが、その実現のためには課題も多く、政府や企業、個人など社会が一丸となって取り組む必要があります。環境問題を専門とする九州環境管理協会の天日美薫氏に、「カーボンニュートラル」に取り組むにあたり何が必要なのか、さらには環境問題とエネルギーの関係についてもお話をお聞きしました。

地球温暖化の影響で今起こっていること

産業革命以降、地球の気温は上がり続け、日本の平均気温もここ100年で1.26℃上昇しています。地球温暖化の主な原因はCO2をはじめとする温室効果ガス排出量の増加ですが、今すぐCO2の排出をゼロにしても、21世紀末には地球の気温が1~2℃上昇すると考えられています。地球温暖化は、すぐに対策が必要な重大な環境問題のひとつなのです。

地球温暖化は私たちの生活にも影響を及ぼしています。異常気象による自然災害の激甚化や夏場の気温上昇による熱中症の増加など、気候変動に伴うリスクが顕在化しています。すでに春と秋が短くなっている印象がありますが、このまま温暖化が進めば、日本の美しい四季がなくなってしまうかもしれません。生態系にも影響し、国内や近海でとれる農作物や海産物の収穫量や品種が影響を受け、今食べているものが食べられなくなるかもしれません。当たり前のことが当たり前ではなくなる時代が来るのです。

世界各地の気候変動の影響は企業活動にも及びます。製品の分業体制が進み、人やモノが世界規模で動いている現代では、他国での災害によりサプライチェーンが寸断され、日本に必要な資源や材料の調達ができず、事業が滞ってしまうかもしれません。決して対岸の火事ではないのです。

画像:日本年平均気温偏差

カーボンニュートラルの実現に向けて

画像:天日 美薫氏

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、政府は、地球温暖化への対応を経済成長の制約やコストではなく「成長への機会」と捉え、積極的に地球温暖化対策を行うことで産業構造や社会経済を変革して次の大きな成長に繋げていく「グリーン成長戦略」を策定し、積極的な投資と革新的なイノベーションの促進を図ることにしています。これらの動きとあわせて、「第6次エネルギー基本計画」の検討も進んでいますが、課題もたくさんあると考えます。

私たち九州環境管理協会では、さまざまな環境影響調査(環境アセスメント)を行っていますが、近年は再生可能エネルギー(以下「再エネ」)、とりわけ太陽光発電についての調査が増えています。環境アセスメントは、大規模な開発を行う場合に、それが環境にどのような影響を及ぼすかについて、あらかじめ調査・予測・評価を行い、環境保全の観点からよりよい計画を作り上げていくという制度です。評価にあたっては、大気環境、水環境、土壌環境、生態系に加えて、眺望景観といった調査も行います。最近は全国的に、森林を伐採した急斜面へ太陽光パネルを設置するなど自然災害を誘発するおそれのあるケースや、自然破壊、景観悪化の問題などで地元から意見等を受けるケースも見受けられます。

地球温暖化対策として有効でも、災害リスクを増大させたり、自然や景観を大きく損なったりするものは地域の人々の賛同を得られません。私たちは、地球温暖化のリスクを正しく知ったうえで、自然との調和を図りながら、個人や社会ができることを考える必要があると思います。

環境問題についての意識を深める方法

環境問題を知り、意識を持って考えるにはどうしたらいいのでしょうか。

まず重要なことは、子どもの頃から環境に関する教育を行うことです。地球環境のさまざまな問題を知った上で未来を考えることはとても大切です。学校での環境教育は近年充実が図られてきました。理科、社会科、技術・家庭科などで環境に関わる内容がありますが、これからは教科を横断した総合的な学習も大事になると思います。

次に、地球温暖化対策が進むように社会の仕組みも変えていく必要があると思います。企業でも個人でも、何らかのメリットがないと、みんなが一定の方向には向かいません。我慢するばかりではものごとが進まないでしょう。政府が策定した「グリーン成長戦略」もそうですが、地球温暖化対策が企業活動や地域のメリットになる支援や仕組みを普及させないと、世の中の動きは加速しないと考えます。

地球温暖化は、一国だけの対応で解決する問題ではなく、世界全体での対応が必要になります。一人ひとりが、美しい地球を未来に残すという意識を持ち、そのために何ができるかを考えることが大事だと思います。

画像:世界の一人当たりの一次エネルギー供給量

環境問題とエネルギー問題は切っても切り離せない

日本のCO2排出量の約85%はエネルギー利用によるもので、このうち約4割が発電所等の供給側、約6割が消費側です。このように地球温暖化とエネルギーは密接な関係にあります。

日本のエネルギー自給率は12.1%(2019年)と他のOECD諸国と比べても低い水準です。自給率を高めながらCO2排出量を削減するには、再エネ、原子力など電源の脱炭素化が必要です。特に再エネに対する期待が大きいものの、日本は国土が狭く、平地が少ないなど適地が限られます。また、先に述べたように地域住民の自然災害や景観に対する意識の高まりなど、更なる導入促進に向けた課題もあります。原子力は、脱炭素化電源として有効ですが、国民の理解が進んでいません。また、島国のため近隣国との電力融通ができず、常に自国で必要量を賄う必要があります。

このような事情を抱える日本が、社会・経済活動に必要なエネルギーを安定的に確保するには、多様なエネルギーをバランスよく使うエネルギーミックスがとても重要です。また、エネルギーを消費する需要側については、家庭や工場などの電化の推進や、水素などの非化石エネルギーへの転換が必要です。

環境問題とエネルギー問題は切っても切り離せない関係にあります。それぞれを個別の問題として捉えるのではなく、同じ土俵の上で議論し、車の両輪として対応していくことが必要です。カーボンニュートラルを達成するためには課題も多く、並大抵の努力ではできませんが、一人ひとりが地球温暖化に関心をもち、自分たちの使うエネルギーのこれからについて考え、次なる成長を生み出すチャンスとすることが大切だと思います。

画像:日本の温室効果ガス排出量(2018年度)
ページのトップへ