Vol.16 原子力の役割と安全性の追求

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画像:守田 幸路 氏

九州大学 大学院工学研究院 エネルギー量子工学部門 教授
守田 幸路 氏

これからの社会では脱炭素化の動きがますます加速していくと考えられています。その実現のために重要な役割を担うのが発電時にCO2を排出しない原子力発電です。原子力について長年研究してきた九州大学工学研究院教授の守田幸路氏に、将来に向けた原子力の重要性や、原子力を安全に利用するための技術開発についてお話をお聞きしました。

脱炭素社会の実現に重要な原子力発電

日本のCO2排出量の約6割は工場や家庭などの需要側、約4割が発電所などの供給側によるものです。CO2排出量の削減には、発電所の低炭素化とセットで需要側の電化を図っていくことが重要です。

需要側では、家庭部門での高効率電化製品の普及、運輸部門での電動化(EVシフト)、産業部門での製造プロセスの電化などを進め、最終エネルギー消費地での化石燃料の利用を電気へと転換することでCO2削減に大きく貢献します。

供給側では、発電所の低炭素化・脱炭素化電源への切り替えが急務です。再生可能エネルギー(以下、再エネ)は脱炭素化電源として代表的なもので、将来の主力電源として期待されていますが、気象条件により発電量が増減することもあり、現時点では安定したベースロード電源にはなりえていません。また、固定価格買取制度(FIT)に支えられ急速に普及しましたが、今後は経済的に自立した電源とする必要もあります。一方で、同じく脱炭素化電源である原子力発電は発電効率が高く、安定的にエネルギーを供給することができます。脱炭素化に向け、再エネ拡大や新たな技術開発に取り組むのはもちろん重要ですが、現実的に使える技術を持っておくことはとても重要です。安全を大前提としながら、今後も安定的なベースロード電源として原子力の活用を進めていくべきだと考えます。

日本は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると表明しましたが、これを達成するには再エネ、原子力だけでなく、水素、カーボンリサイクル、蓄電池など、あらゆる選択肢を追求して総力戦で進めていくことが必要です。

画像:日本のCO2排出量比構成比(2018年度)
画像:電源別発受電電力量の推移

安全性を遵守した上での原子力の活用

将来においても重要な原子力発電ですが、さまざまな課題もあります。2011年の東日本大震災前は54基が稼働し、電力の約30%を賄っていましたが、震災後に制定された厳しい新規制基準のもとで検査に合格し再稼働しているのは9基にとどまっています。一方で、新規制基準への対応が難しい原子炉は廃炉となっています。その結果、日本のエネルギー自給率は、震災前の約20%から現在は12%ほどに低下しました。また、新規制基準では運転期間を40年と定め、1度限り20年の延長が認められていますが、今後、運転開始から40年を迎える発電所の運転期間を延長するかどうかも課題になります。

エネルギーミックスを実現するためには、原子力の利用は必要であり、安全確保を大前提に、新規制基準に合格した原子力発電所を稼働させるのが望ましいと考えます。安全性確保のために重要なことは、独立した組織である原子力規制委員会(NRA)で新規制基準にもとづく厳格な検査を行い、事業者も安全についての不断の取組みや安全性向上を目指した技術開発を続けていくことです。原子力発電所が立地する地域の理解と協力、地域との共生も欠かせませんし、万一に備えた避難計画なども重要だと思います。

原子力の利用にあたっては、使用済燃料の再処理や処分など、バックエンドシステムの確立も重要な課題です。高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定については、2020年、北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)で文献調査が始まりました。これは、対象となる地域の地形図や文献などを机上で調査するもので、地域の方々の議論を深める説明会なども実施されます。文献調査後の概要調査に進むかどうかは改めて地域の意見を聞くことになっています。これを機に日本全体で処分事業への関心が高まることを期待していますし、引き続きバックエンドシステムについての様々な取組みを着実に進めることが重要だと考えます。

画像:高レベル放射性廃棄物 最終処分地の選定プロセス

より安全で経済性の高い次世代型原子炉

既存の原子力発電所は、いずれ運転を停止する時期を迎えます。将来にわたって原子力を活用するためには、発電所の新・増設も必要になります。この際に、より安全で経済性の高い原子力技術を取り入れていくことは重要で、そのための研究開発も欠かせません。

いま日本で稼働中の原子炉である軽水炉の安全性を高めていくことはとても重要です。一方で、次世代型原子炉の技術開発も進んでいます。安全性に優れ初期投資も抑えられる小型モジュール炉(SMR)、ウランの資源量が限られる中で核燃料をリサイクルして使うことができる高速炉、高温の熱を取り出し水素の製造などにも活用できる高温ガス炉などが代表的です。SMRは海外で複数の開発プロジェクトが進んでいます。高速炉は日本では原型炉「もんじゅ」の廃炉が決まりましたが、日本原子力研究開発機構(JAEA)がフランスと協力して研究開発を継続しています。また、世界では、ロシア、中国を中心に開発が進んでいます。高温ガス炉はJAEAで開発が進められています。原子力発電は初期投資が大きく費用回収に長期間を要することが課題のひとつですが、小型炉はシンプルなシステムで初期投資が抑えられ、工期も短く、安全性の向上も図られており、日本にも導入される可能性があります。

原子力の安全には幅広い意味を含んでおり、福島第一原子力発電所のような事故を起こさないこと(過酷事故の発生防止)に加えて、事故を起こしたときに拡大させないこと(過酷事故の影響緩和)も重要です。事故を起こさないよう最大限努力しても、事故が起こってしまうリスクはあります。万一の場合に、影響を可能な限り小さくする技術の研究も重要です。

画像:次世代型原子炉の特徴

原子力を担う人材の育成と社会的役割

画像:守田 幸路 氏

私たちの研究室では安全な未来の原子力システムの実現をテーマに、自動的な安全システムの開発や、事故を起こしたときに原子炉がどうふるまうかを研究しています。将来導入される原子力発電所をより安全にするために、20年後、30年後の実用化に向けて地道な研究開発を続けていくことも大学の役割だと考えています。

日本は高いレベルの人材・技術・産業基盤を持つ一方で、原子力に関わる人材は減っており、一部の企業では原子力事業から撤退する動きもあります。しかしながら原子力を担う人材はこれからも必要であり、人材育成は私たちの重要な仕事のひとつだと考えています。原子力工学は総合工学であり、いろいろな分野の技術や知識を身につけ、それを応用していく非常に面白い学問です。少しでも多くの学生に興味を持ってもらえればと思います。

また、一般の方々が持つ疑問や不安に答えていくのも我々専門家の大切な仕事です。学校や一般の講演会など、お話できる場があればできるだけお受けするようにしています。今の高校生などと話していると、マスコミ報道などである程度の知識を持っているものの、表面的な知識にとどまっている印象もあります。海外で原子力発電を止めた国があると話題になりますが、詳しい背景についてはあまり触れられません。例えば、ヨーロッパは陸続きで、火力発電に使う天然ガスのパイプライン網も整備され、原子力発電を止めても他国と電力を融通し合うことができます。しかしながら島国である日本でそれは難しく、ヨーロッパとは事情が違います。このような原子力やエネルギーに関する事実について、公平な視点でお話しすることが大切だと考えています。

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