特集「カーボンニュートラルって何?」

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カーボンニュートラルって何?

寄稿

カーボンニュートラルに向けて原子力を含めた様々な対策の活用を〜第6次エネルギー基本計画を受けて〜

(公財)地球環境産業技術研究機構
システム研究グループリーダー・主席研究員

秋元 圭吾 氏(あきもと けいご)

1999年横浜国立大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。
1999年地球環境産業技術研究機構入所、2012年より現職。
総合資源エネルギー調査会基本政策分科会、電力・ガス基本政策小委員会、産業構造審議会地球環境小委員会、調達価格等算定委員会等、多数の審議会委員を務める。
気候変動に関する政府間パネルIPCC代表執筆者。エネルギーシステム工学が専門。

第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。2020年10月に菅首相(当時)は、2050年にカーボンニュートラル(CN)を宣言した。これまでパリ協定の下、2℃を十分に下回るとする、いわゆる2℃目標に整合的とされる2050年80%削減目標を掲げてきたが、2050年CN(正味ゼロ排出)は1.5℃目標に相当する。

そもそも、電力のゼロ排出化は非電力のゼロ排出化に比べて優先されること、原子力は費用対効果の高い脱炭素電源であることから、原子力の社会的制約は踏まえざるを得ないものの、80%削減下であっても最大限活用されるべきである。よって、正味ゼロ排出への目標が引き上がっても、本来、原子力の位置づけは変わるものではない。ただ、2050年カーボンニュートラルのためには、より一層、原子力の役割の重要性を認識すべき状況である。

CNのためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)を含めた省エネの更なる推進を前提に、一次エネルギーとしては、原則、再生可能エネルギー(再エネ)、原子力、CO2回収貯留(CCS)付きの化石燃料のみで構成することが必要となる。また、これら国内のゼロ排出エネルギー源にコストや量の制約もあるため、経済合理性の点から、海外の再エネやCCS化石燃料を水素に転換した上で活用することも考えられる。更に、利便性を高めるために、水素に窒素や炭素を付加して、アンモニアや合成燃料(合成メタンや合成液体燃料)にして利用することも重要性が高い。それでも残り得る排出をオフセットする、植林、バイオエネルギー + CCS(BECCS)、大気中CO2直接回収・貯留(DACCS)等の二酸化炭素除去技術の役割も大きい。

CN達成に向けての主要な対策は再エネであり、その大幅な拡大は必須である。しかしながら、再エネを大幅に利用拡大していくには、条件の悪い場所で再エネを活用することとなる。太陽光と風力発電はエネルギー密度の低いエネルギーから電力を作り出すため、その分、必要な土地面積が大きくなる。火力・原子力発電(100万kW)と同量の発電量を得るための必要面積は、太陽光では100倍程度、風力では400倍程度である。日本は、平地面積が小さく、大規模な土地が必要な太陽光や風力発電は、導入規模が大きくなると、他の土地用途との競合が起こりやすくなると考えられる。日本はすでに平地面積あたりの太陽光、風力発電の発電電力量は、ドイツやイギリスなどより高くなっている。実際に現時点でさえ、景観や森林伐採等で土砂災害のリスクの懸念が広がるなど、地方自治体の中には条例を制定し規制を図る動きも見られている。更には太陽光と風力発電は自然条件で出力が変動するため電力需給を一致させることが難しく、それらの拡大に従って出力抑制、火力等によるバックアップ、蓄電などが必要で電力コストの増大となっていく。今後、太陽光、風力の更に大幅な拡大に伴って、これらの問題が一層大きく顕在化してくると考えられる。

よって、再エネを拡大していくことは不可欠であるものの、再エネ100%を目指そうとするなど、手段を目的化するようなことはすべきではない。様々なオプションを活用し、エネルギーの安定供給を前提に、CN達成をより安価に実現する対策を目指すべきである。第6次エネルギー基本計画では、「安価で安定したエネルギー供給によって国際競争力の維持や国民負担の抑制を図りつつ2050年カーボンニュートラルを実現できるよう、あらゆる選択肢を追求する」としたが、これは適切な記述と言える。

また、エネルギー基本計画では、「原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」としつつ、「国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく」とした。エネルギー基本計画の議論を行った総合資源エネルギー調査会基本政策分科会では、筆者を含めて多くの委員が、カーボンニュートラルに対応するために、また、原子力関連の高度な人材維持のため、原子力発電の新増設・リプレースも含めて原子力の活用とその明記を求めたが、国民の十分な理解が得られていないということからか、このような曖昧な記載に留まった。しかし、気候変動や経済、安全保障・安定供給の広範にわたるリスクを総合的に考えるならば、原子力発電の安全性向上を続けながら、持続的で適切な利用を進めることが重要と考えられる。エネルギーは経済社会全体の血液のようなものである。エネルギー資源に乏しい日本は、エネルギー政策を誤れば、産業競争力、国力を損なってしまう。引き続き、総合的な視点を持ってエネルギー対策・政策をとっていかなければならない。

(2022年2月)

 
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