情報誌「TOMIC(とおみっく)」

59号 2019年3月発行(1/4)

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TOMIC第59号 新しいエネルギー基本計画の考え方〜第5次エネルギー基本計画が目指すもの〜

東京大学 大学院工学系研究科
原子力専攻 教授
山口 彰
(やまぐち あきら)

1957年生まれ。東京大学工学部原子力工学科卒業。
同大学大学院工学系研究科博士課程修了後、動力炉・核燃料開発事業団(現・日本原子力研究開発機構)において高速炉研究に従事。
大阪大学大学院教授を経て、2015年より現職。原子力規制委員会発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム委員、文部科学省原子力科学技術委員会主査、原子力小委員会委員、自主的安全向上・技術・人材WG座長、日本原子力学会リスク部会長などを務める。


2018年7月に、これからのエネルギー政策の方向性を決める「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定されました。
エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づいて政府が策定するもので、2003年に最初の基本計画(第1次)が策定されて以降、おおよそ3年ごとに改定が行われています。今回の改定では、どのような変更点があり、その背景は何なのか、国の策定委員会メンバーでもある東京大学大学院教授の山口彰氏にお話をうかがいました。

日本のエネルギー選択の歴史とエネルギー基本計画

まず最初に、エネルギー基本計画は何のためにあるのかを理解するため、日本のエネルギー選択の歴史を俯瞰しておきたいと思います。

1960年代初頭、日本のエネルギーは国内の石炭や水力発電などが中心で自給率はおよそ60%でした。その後、経済が急速に成長して東京オリンピックの開催や新幹線・高速道路の建設などが行われ、エネルギー消費が大幅に増加したことに伴い国内石炭から輸入石油へとエネルギー転換が進み、1970年ごろには自給率は15%にまで低下しました。経済成長に伴いエネルギー消費が大幅に増加し自給率の低下へとつながっていったのです。

ところが1970年代に2回のオイルショックが起こり、石油の値段が大幅に上昇しただけでなく、石油の確保が不安定になり、国民生活が大きく混乱しました。このオイルショックを教訓にエネルギーはただ輸入すればよいのではなく、安くて安定的に供給しなければいけないということに気づくのです。いわゆる「脱石油」の動きが加速され、1980年代にかけて原子力や天然ガスへの転換が進んでいきます。

さらに1990年代に入ると地球温暖化の問題が顕在化します。京都議定書が採択され、温室効果ガスの削減に世界中で取り組んでいくことになります。安いエネルギーを安定的に供給するだけでなく、環境にも大きな負荷をかけないエネルギーの確保が社会的に求められるようになりました。

そして2011年には東日本大震災、福島第一原子力発電所事故を経験し、安全の重要性を改めて認識しました。再生可能エネルギーが脚光を浴び、普及、拡大に取組んできました。

エネルギー政策のメガトレンド

安全かつ安定的に低コストで環境負荷が少ないエネルギーをどのように確保するのかというエネルギー問題は経済や技術、あるいは国民の生活と切っても切り離せない大きな課題です。解決していくためには国としての姿勢や方針が重要となります。それを示すのがエネルギー基本計画です。今後、社会がさらに多様化・複雑化していく中、エネルギー問題の解決に向けた国としての計画や方針がより重要性を増していくと言えるでしょう。

 
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