情報誌「TOMIC(とおみっく)」

55号 2017年3月発行(1/4)

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TOMIC第55号 先端技術で未来を照らす二つの光〜SPring-8とSACLA〜

国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター
センター長
 石川 哲也
(いしかわ てつや)

1982年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了(工学博士)。東京大学工学部助教授を経て ’95年理化学研究所主任研究員。大型放射光施設SPring-8のビームライン建設を統括。2005年X線自由電子レーザー計画合同推進本部プロジェクトリーダー。現理化学研究所播磨研究所放射光科学総合研究センター長。


日本に世界一小さいものが見れる顕微鏡があるのをご存じでしょうか。兵庫県の理化学研究所放射光科学総合研究センターにある、SPring-8(スプリングエイト)とSACLA(サクラ)のことです。細胞のたんぱく質まで見れる電子顕微鏡に対し、何と細胞の分子や原子まで見ることができるのです。今回は同センター長の石川哲也氏にこの装置についてわかり易く解説していただきました。この世界一の装置のしくみや役割について学び、これからの実用性について考えたいと思います。

原子・分子レベルの世界を見る顕微鏡

放射光科学総合研究センターは、放射光の光源の開発とそれを用いた研究を推進する施設です。平成9年(1997)に世界最大の大型放射光施設SPring-8(スプリング8)が完成し、その後、世界最短波長のX線レーザーを発生する施設としてSACLA(サクラ)が、平成24年(2012)3月より供用を開始しました。どちらも世界一を誇る施設ですが、その内容を紹介する前に、「放射光」と「X線」について、簡単に説明しましょう。

電子など、電気を帯びている粒子は光の粒子を伴っています。光の雲、光の衣(ころも)をまとっているとも言えます。もしも衣をまとい高速で走っている電子が急に止まったとしたら、光の衣は前方に飛ばされてしまいます。飛ばされた衣は、そのときの速さ、エネルギーの強さによって光やX線などの電磁波として放出されます。

偏向磁石

同様に高速で進んでいる電子を曲げた場合、光の衣は電子のようには曲がらず直線方向に飛び出していきます。 この場合も同様に電磁波が出てきます。この際に観測される電磁波が「放射光」です。イラストにあるように磁石の力によって、電子は進む方向を曲げられます。これが偏向磁石です。

私たちがものを見るときには光が必要です。光には波長があり、波長が短い光ほどより細かいものを見ることができます。19世紀末にレントゲンによって発見されたX線は可視光に比べて波長がとても短く、病院の診断等でよく知られています。

現在、ナノテクノロジーと呼ばれる最先端の科学技術では、原子や分子のレベルで物質の構造を理解する技術が進んでいます。微細なものを観察するために適しているのは非常に波長の短い光「X線」であり、放射光施設はそれらを見るための巨大な顕微鏡といえます。

スプリング8(電子エネルギー8GeV)の場合、赤外線、可視光線からX線、ガンマ線の一部まで発生させることができます。太陽光の100億倍明るい放射光を放つことで、原子、分子レベルで微小な領域の物質を見ることができるのです。

物の大きさと光(電磁波)の種類

 
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