情報誌「TOMIC(とおみっく)」

54号 2016年10月発行(2/3)

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エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2016年 第54号 高レベル放射性廃棄物の地層処分〜世界的に認められている地層処分について正しい認識を〜

世界的に認められた地層処分

使用済燃料の再処理は、日本においては青森県六ケ所村の再処理工場で行われる予定です。ガラス固化体はここで作られ、冷却のため現地で30〜50年貯蔵されます。貯蔵初期のガラス固化体は280度ぐらいの高温ですが、貯蔵期間中に100度以下に下がります。

その後、最終処分場に運ばれて地下300メートルより深い地層中に埋設する最終処分が行われます。現在、高レベル放射性廃棄物の処分方法のうち、最も問題点が少ない解決方法として世界的に採用されているのがこの地層処分です。

仮に地上で管理した場合、地震や台風などの自然現象、人間による戦争やテロ、空気に触れることによる金属の腐食等の問題が起こる可能性があります。また地上で長期管理した場合のコストは膨大なものになり、将来の世代に技術的、経済的に大きな負担を残してしまうことになります。

高レベル放射性廃棄物の処分方法〈 図4〉

他にも、宇宙処分や海洋底処分、氷床処分などが検討されましたが、いずれも問題点があり、最終的に最も安全確実で自国での処分が可能な方法として選ばれたのが地層処分です。〈図4〉人間による管理を必要としない解決方法として現在では世界で共通した認識となっています。

多重バリアシステムで守る地層処分の考え方

地層処分は地下300メートルより深い地中に、放射能レベルが極めて高い廃棄物を埋設します。そのため放射性物質が漏れることを防ぐさまざまな対策が施されます。ガラス固化体、オーバーパック、緩衝材といった3層の人工的なバリアと、長期にわたって安定した天然の岩盤(天然バリア)という多重のバリアシステムによって、放射性物質を長期にわたって閉じ込め、私たちの生活環境から隔離します。

紀元前14世紀古代エジプトのガラス瓶(岡山市立オリエント美術館蔵)

ガラス固化体 (人工バリア1)
再処理の過程で出る液体状の高レベル放射性廃棄物を、ガラス原料とともに融かして固めたものがガラス固化体です。ガラスはさまざまな元素を融かして閉じ込める特徴を持っています。主成分であるケイ素やホウ素などの原子が網目のような構造をしており、この網目構造の中に他の元素(放射性物質など)をしっかりと取り込むため、物質の保持能力が極めて高く、化学的に安定しているのです。
たとえば色ガラスもいろいろな元素が融け込むことによって作られたものです。遺跡から発掘された3000年前の古代のガラス製品が現在も色鮮やかに残っているのは、内部に元素を閉じ込めて長期に安定して存在しているからです。
また、ガラスは割れても取り込んだ成分がガラスの外に出てくることはありません。さらにガラスは非常に安定した素材で水には容易に溶けません。放射性物質はガラスの網目構造の中にしっかり取り込まれているため、ガラスが割れても直ちには溶けだしません。こうしたガラスの性質を利用して、高レベル放射性廃棄物をガラス固化体に封じ込め、極めて長期にわたって安定的に処分しようということです。

オーバーパック (人工バリア2)
このガラス固化体をさらにオーバーパックと呼ばれる金属製の容器で覆います。オーバーパックの役割は、ガラス固化体が、放射能がある程度減少するまで、地下水と触れないようにすることです。
金属は酸素により酸化して腐食していくことが想定されます。ところが地下深くは微生物の活動などによって酸素が非常に少なく、腐食は極めてゆっくりとしか進まないため、金属製品が錆びずに長く存在することができます。1000年間の腐食量は大きく見積もって40ミリ程度です。厚さ19センチと余裕を持った設計で、非常に頑丈に作られており、もし仮に列車やトラックがぶつかっても壊れません。

緩衝剤(ベントナイト) (人工バリア3)
もうひとつ、オーバーパックの周囲のすき間を埋め、放射性物質の漏れを防ぐために使用されるのが緩衝材です。緩衝材としてベントナイトという粘土質のものが使われます。粘土は水を通しにくいという性質があり、柔らかいため周囲の圧力や岩盤の変化にも柔軟に対応することができます。緩衝材として使用することで放射性物質が水に染み込んで移動することを防ぐ(遅らせる)ことができ、放射能が生物圏に影響のないレベルに下がるまで、しっかりと地中に閉じ込めます。
ガラス固化体、オーバーパック、緩衝材は、放射性廃棄物に対して人間が用意した人工バリアです。これに加えて天然バリアというものがあります。それが地中深くの安定した岩盤です。

天然の岩盤 (天然バリア)
地下の深い場所は大変変化が少なく、安定しています。例えば地下水は年間わずか数ミリから1センチ程度しか移動しません。爪が伸びる速度より遅く、それくらい変化の少ない場所なのです。また、酸素が非常に少ないので鉄が錆びにくく、オーバーパックなどの金属製品が錆びずに長く存在することができます。

高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)1本あたりの放射能レベルの推移〈図5〉

地殻変動のある日本では将来的に土地が隆起する可能性もありますが、ある程度の深さであれば安全だと考えられています。これまでの記録では地表において、平均して100万年で1000メートル程度の隆起が起こることが分かっています。ただ、ガラス固化体は製造後、1000年間で放射能が約1/3000になり、さらに約8000年後には原料となったウラン鉱石と同程度の放射能となります。〈図5〉そのため300メートル以下の深さであれば問題のないレベルと考えられています。

このように人工バリアと天然バリアを加えた仕組みを多重バリアシステムと呼び、高レベル放射性廃棄物をさまざまな角度から保護します。人間の知恵や技術とあわせて天然のバリアを組み込むことにより、より安全で確実な処分ができるようになるのです。

高レベル放射性廃棄物の地層処分イメージ

 
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