情報誌「TOMIC(とおみっく)」

49号 2014年3月発行(4/4)

  • 印刷
  • PDF
 

エネルギーが支える明日の社会のために TOMIC 2014年 第49号 九州エネルギー問題懇話会 TOMIC49号 シェールガス革命、日本への影響 エネルギー多様化社会に生きる日本

米国以外での開発の見通し

現在、シェールガスの開発が進んでいるのは米国とカナダのみですが、中国、ロシアなど世界に分布するシェール層の位置や規模は、衛星写真などによってほぼ分かっています。

その中でも、最も広大なシェール資源を持つと言われているのが中国です。

中国は自国のエネルギー消費の増大によりLNG輸入やパイプラインを通じたロシアからのガス輸入に頼らなければならず、シェールガス生産への期待は高まっていますが、中国には開発技術はまだありません。中国の石油企業などが米国やカナダの資源分野に投資し、プロジェクトへ参画していますが、目的はシェールガス開発のノウハウを得ることにあると思います。

しかし、中国における開発には難点があります。シェール層が米国と比べてやや深いところに多くあり、開発には、現在の米国の技法とは異なるものが必要となるかもしれません。また、シェール層が分布するタリム地域は水資源が少なく、水圧破砕に必要な水が確保できないという問題の他、出てきたガスを送るパイプラインなどインフラの充実を図る必要もあり、クリアしなければならない問題が山積しています。

〈図-6〉世界のシェールガス資源賦存地域

一方、ロシアはシェールガスよりも、在来型の石油や天然ガスの開発を重視しているのが現状です。ロシアとしては、国際エネルギー価格の変動によって、自国経済が左右されることや市場のシェアを確保できなくなる事態を避けたいという事情もあり、米国のシェール革命による国際ガス価格の低迷を好ましくは思っていません。既に米国のシェール革命によって余剰となったLNGが安価な価格でヨーロッパに流れたことにより、ヨーロッパ各国から厳しい価格交渉を強いられています。こうした状況もあり、今日、ロシアは既存のガスの開発と中国や日本などへの販路拡大に力を入れるようになっています。〈図-6〉

今後の日本のエネルギー政策について

近年、将来のエネルギーの安定化を求めて、日本政府が取り組む場面もよく見かけるようになってきました。特に興味深いのが、首相による資源産出国への歴訪と働きかけです。企業トップの随行も行うようになり、海外メディアに取り上げられることで企業のプレゼンスも一段と拡大してきています。

また、LNG市場の抱える問題について世界から産出国や消費国の閣僚や企業関係者が集まり議論する経済産業省主催の「LNG産消会議」が開催された他、政府支援の資源開発金融によるLNG海外プロジェクトのサポートなど、政府主導のさまざまな取り組みも始まっています。

現在、日本全体のエネルギー構成の中で天然ガスの占める割合は2割を超え、世界平均に並びました。しかし、発電用においては4割を超えており、この偏りは、シェールガスに関係なく解決していかねばならない問題と言えます。原子力発電について根強い反対もありますが、従来ほどの比率を持ち得ないにしても、バランスのよい配分はエネルギーの安定化の上で不可欠です。天然ガスの価格交渉の面からも、原子力発電を一定量持つことはその交渉において有利に働きます。

また、日本の安全な暮らしも大事ですが、グローバルな見地に立てば、日本のLNGの需要増加が国際的なガス価格の引き上げを招き、LNGで電気の普及を進めようとしていた発展途上国の道を塞いでしまった、という事象も垣間見えてきます。電気が来ないため医療を受けられない子どもたちを増やさないためにも、国際的な目配りが今以上に求められていくことになります。

シェールガス革命から見える世界的なエネルギーの動きは、私たちにグローバルな目を与えてくれると同時に、エネルギー源の多様化、調達源の多様化、価格の多様化といった多角的な思考と超長期的な視点をもたらしてくれます。この“多様化”という言葉が、シェールガス革命のキーワードだと私は思います。

 
ページの先頭へ戻る