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Vol.20 医療分野における放射線利用

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医療分野での放射線利用

医療分野においては、この「分裂の盛んなものほど放射線の影響を受けやすい」ことを逆手にとって、放射線によるがん治療(放射線治療)を行います。前述した臓器等と同様に、体内で増殖するがん細胞は分裂が盛んで、放射線感受性の高いものが多いとされます。それに対して人工的に放射線を照射することでがん細胞を死滅させようとするものです。

アルファ線は近年がんの免疫放射線療法などに用いられています。これはアルファ線を放出する核種を抗体(がん細胞表面にある目印[抗原]を探し出し、結合することで、そのがん細胞を体内から排除する機能がある分子のこと)に結合させ、患者に投与することで、がん細胞に直接放射線を照射する方法です。アルファ線は放射線の飛程が短く、しかもがん細胞へ与えるエネルギーが比較的に大きいため、より良い治療効果が期待できます。遮へいが簡単で半減期も短いため、他の組織に影響が広がりにくく、また、患者の体から出る放射線はほとんどなく、周囲への被ばくも小さいため、有効で安全性が高い治療法です。

ベータ線も同じような治療法に利用されますが、加えて、医療器具などの滅菌にも活用されています。複雑な形状をしたものや、洗浄に水を使えない器具や機械に対し短時間照射するだけで滅菌することができます。

X線は昔から診断・治療に使われてきましたが、同じ性質を持つガンマ線を利用したのがガンマナイフです。これは主に脳腫瘍や頭頚部腫瘍等の治療に用いられるものです。複数のガンマ線の線源をヘルメットのような形状に並べ、そこから病巣部に対して集中的にガンマ線を照射する治療法です。個々の線源から照射されるガンマ線は細く弱いので、線源から病巣部への通過線上にある細胞等、病巣部周囲の正常な組織をほとんど傷つけることがありません。つまり副作用が最小限に抑制されるということです。一方、病巣部に対しては複数の線源から照射されたガンマ線が集中することにより、大きなエネルギーが与えられ、病巣部分を死滅させることができます。

これらに加え、ここ10年ぐらいで放射線治療はかなり進歩し、従来取り扱いが難しいとされる炭素、ネオン、アルゴン等を活用した重粒子線も安全性を高めて利用できるようになってきました。これらを活用した放射線治療は先進医療とされていますが、頭頸部や前立腺のがん等、一部のがんは公的医療保険を適用して治療することができます。

九州では佐賀県にこの重粒子線を用いてがん治療を行う九州国際重粒子線がん治療センター(サガハイマット)があります。

このように、医療においては、放射線の特性を理解した上でそのマイナスに作用する部分を上手くコントロールし、プラスに作用する効力の最大化を図ることで、放射線は安全に賢く利用されています。

照射イメージ

照射イメージ

 
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